@人事 ドイツ支部通信
ドイツ式就活の経験から考える、採用のミスマッチを防ぐ5つの方法
2018.02.02
今年の3月、就活生に向けた企業説明会が解禁される。今の時期、企業は採用活動に向けてさまざまな準備をしているだろう。
だが毎年、思うように人を集められなかったり、ミスマッチにより新卒がすぐに辞めてしまったり、内定辞退が相次いだりといったことが報じられる。
そういったことを防ぎ、望んだ人材と出会い働いてもらうためには、どうすべきなのか。日本とドイツで就活したわたしが「もっとこうすればいいのでは」と思ったことを、5つほど紹介したい。
ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。
1.将来を想像できる具体的な情報を
日本の新卒一括採用は世界的にも特殊な制度で、「就職活動の時点ではなんの仕事をするかわからない」という特徴が挙げられる。理系の研究職や基礎知識を要求するプログラマーなどは別だが、採用後に適性を見て配属を決める企業は少なくない。
そうなると、就活生はぼんやりとしか将来を想像できない。だからこそ、学生が「どんな仕事をするのか」を想像しやすくなる工夫がもっとあってもいいんじゃないだろうか。
ドイツのような仕事内容を限定した採用はむずかしいにしても、新卒が配属される部署、そこでの具体的な仕事や、先輩社員の1日のタイムスケジュールなどを伝えれば、学生は入社後の自分を想像しやすくなる。
さらに、「こういう人は〇〇部に配属されやすい」「〇〇をしたい人はこういう資格を取っておくといい」など、どういう基準で配属が決まっていくか、という具体的な話があると、不安要素も少なくなるだろう。
2.自社で働くことの実利をアピール
わたしが参加した企業説明会では、会社の理念や社員の思い、理想の学生像といった精神論が主として語られた。それももちろん大事だが、学生はもっと現実的なことを知りたがっているんじゃないだろうか。たとえば、有給休暇の取得率や育児休暇の制度、平均残業時間や休日出勤の有無などだ。
高校や大学を選ぶときに、学校の理念を重視する受験生がどれだけいるだろう。それよりも、偏差値や進学・就職率、留学や就職サポートといった実利の部分に注目するはずだ。
就職もそれと同じで、もっと学生に実利についてアピールすべきじゃないだろうか。従業員をどれだけ大切に扱っているかについてちゃんと説明すれば、学生からの信頼度も上がる。
実利が多いということは福利厚生や従業員へのケアが手厚いということにもなるし、具体的な制度や数字を公表できるということはそれだけやましいことがない、というイメージアップにもつながる。
3.上司と学生の交流はメリットが大きい
ドイツで就活したとき、採用担当者だけではなく、直属の上司になる人が面接官だったことがあった。上司が直接、職場の雰囲気や大切にしていること、仕事内容などを説明してくれたのだ(ドイツは日本ほど企業説明会が活発ではないので、面接の時点で企業の説明をされる)。
その方はとても気さくで、わたしの質問に丁寧に答えてくださったこともあり、「信頼できる人だ」という印象を受けた。
パワハラという言葉が広まった現在、どんな上司なのかは学生にとっては気になるところだ。魅力的な上司がいる会社は魅力的に映るし、志望動機にもなりえる。
会社説明会などでは、人事担当と2、3年年上の先輩社員が登壇することが多いと思う。具体的な仕事内容やキャリアプランを提示するときに、たとえばその部署で肩書がある人が、「うちの部はこんな感じでやってます」と説明してはどうだろう。
その部署を希望する学生と個人的に話す時間を取り、学生に「この人のもとで働きたい」と思ってもらえるように配慮するとさらにいい。
上に立つ人間が表に出れば、採用する側とされる側の距離がもっと近づくだろう。
4.オフィス案内でもっと身近に感じてもらう
もう一つ、学生をオフィスに案内することを強くおすすめしたい。基本的に毎日通うことになるので、オフィスがどんな感じなのかも大事な志望動機になる。
わたしが一度案内してもらったドイツの旅行代理店のオフィスの机は、すべて高さが変えられる仕様になっていた。座って仕事をしたり立って仕事をしたりと、従業員が自分で決められるのだ。さらに上司の個室のドアは開けっ放しになっていて、従業員の働きやすさに気遣っている感じがした。
オフィスの印象は大切だ。ひとりひとりのスペースが狭く、騒々しいうえピリピリとした空気のオフィスで働きたい人はいない。逆に、明るくキレイで開放的なオフィスなら、「仕事がしやすそう」というイメージを持ってもらえる。
写真を使ったパワポでオフィスの様子を伝えるより実際見てもらった方が訴求力がある。先輩が丁寧に指導していたり、社員が談笑しているのを見れば、学生は働きやすい職場だと思うはずだ。
5.オンライン化すればもっと伝えられる
最後に、説明会や面接をもっとオンライン化することも大切だと思う。
地方の友人は就活のために毎週上京してホテルに泊まっていたため、就活貧乏に陥っていた。面接のスケジュールによっては、「連続して東京に行くのはむずかしいからここは却下かな……」と、×をつけられてしまうかもしれない。
オンライン化のメリットは、地方の学生からはもちろん、海外留学中の学生にも注目してもらえることだ。わたし自身、留学経験があるので、「もっとオンライン化していれば就職のために卒業を延ばす学生が減るだろうに」と思っていた。
オンライン化は外国人採用にも有効で、ドイツ在住のメキシコ人の友人は、オンライン面接で見事日本での就職を決めた。
たとえば、説明会に参加できない上司がオフィスを案内したり、上司が部下に和気藹々とインタビューした動画を流したらどうだろう。説明会を配信してSNSで質問を受け付けてもいいし、就活生向けの公式LINEアカウントを作って情報を流してもいい。
オンライン化すればより多くの学生に興味を持ってもらえるので、特におすすめしたい。
企業説明会をうまく利用して学生を惹きつけよう
日本の就活は対象者が多いので、説明会ではどうしても具体性が乏しく、似たような話が多くなってしまいがちだ。
具体的な話を盛り込み、会社や上司・先輩、オフィスを直接知ってもらい、オンラインを活用して多くの就活生に情報が届くよう工夫すれば、学生にとって魅力的な企業に映るのではないだろうか。
執筆者紹介
雨宮紫苑(フリーライター) ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
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