業務ハック勉強会@東京 レポート
業務改善から真の働き方改革が始まる! 効率化のカギは楽しむこと
2017.12.27

働き方改革への注目が集まる中、一部の企業は、退社時間を決めて社員の残業を禁止しました。とはいえ業務量が減らなければ、社員が仕事を持ち帰るしかないのは一目瞭然。働き方改革には、業務の効率化が欠かせません。しかしこれまでは、会社の垣根を越えて、業務改善のノウハウが共有されることはありませんでした。
そんな中、ソニックガーデンの髙木咲希さんが立ち上げたコミュニティが「業務ハッカーズ」。現場で業務改善に取り組む人たちが、会社を超えてノウハウを共有することを目指しています。
@人事では、2017年12月15日に開催された「業務ハッカーズ」の第1回勉強会に参加。業務効率化への熱意に溢れたイベントの様子をレポートします。
「業務改善の悩みをコミュニティで解決」業務ハッカーズ代表 髙木咲希さん
初めに業務ハッカーズ代表の髙木咲希さんが登壇。「業務ハック勉強会」を始めた理由を語りました。【写真】
受託開発による業務改善に取り組んでいる髙木さん。業務ハック勉強会を始めたのは、ある悩みがきっかけでした。一緒に業務改善に取り組んでいた顧客の1人が仕事をやめたのをきっかけに、業務改善担当者の悩みの深さ、社内地位の向上といった、さまざまな課題に直面したのです。
これらの悩みは、独りで簡単に解決できるものではありません。そこで髙木さんが考えたのが、コミュニティを作ること。勉強会を開くことで、会社を超えて業務ハックのノウハウを共有でき、業務改善担当者が独りで抱えがちな悩みを分かち合うことができます。同じ立場にいるもの同士、業務ハッカーが認め合うことができるのです。
髙木さんは「登壇者や参加者とともに、業務ハックを広げていきたい」と期待を語りました。
「業務改善により、企業の運営コストが下がる」 ネオラボ 中岡直輝さん
続いて、株式会社ネオラボで事業企画部のチームリーダーを務める、中岡直輝さんが登壇。「kintoneネイティブ世代の挑戦~ タイピングすらできない理系新卒による、業務改善」と題して、講演を行いました。【写真】
新卒2年目の中岡さんは、ネオラボに入社した当時、システム開発はおろか、Excelの操作やタッチタイピングもまったくできなかったといいます。そんな中岡さんが業務改善と関わり始めたのは、ビジネスアプリ作成プラットフォーム「kintone」との出会いがきっかけでした。タッチタイピングができないにもかかわらず、「kintone」は使いこなせたという中岡さん。自らを「kintoneネイティブ世代」と称します。
「kintone」開発時のビジョンは「『ヒト』にしかできないことへ、もっと」というもの。ヒトはヒトにしかできないことに時間を使い、ロボットやAIができることは効率化したいという思いが込められています。
中岡さんが「kintone」で行った業務改善には、以下のものがあります。
- アプリを使った帳票発行の業務改善
- Chat botの利用によるチャットワークとの連携
- 「ワークフロー」アプリの利用による購買申請業務の効率化
- 海外連携のためのアプリ利用
これらの結果、日本および海外の各拠点で、アプリの提案・作成・改修が主体的に行われる組織が生まれました。
今後の展望として語られたのが、業務改善職の創出。近い将来、日本の人口は1億人を切るといわれています。業務にかかる時間を短縮できれば、少ない人数、少ないコストで会社を運営できるようになると提言しました。
「業務改善をしていたら、働き方改革に」KFカーバイドジャパン 北本悦子さん
次に登場したのは、KFカーバイドジャパン株式会社の北本悦子さん。【写真】
同社はかつて、Excelで営業活動に必要な項目(買掛金、売掛金、納期、在庫など)の管理を行っていました。しかし「業務の属人化」「リアルタイムの情報が得られない」「バックアップ漏れが発生する」「ファイルが重く操作がしにくい」など、次第にExcelにありがちな問題が明らかになります。
そこで2016年、システムの導入が決まりました。まず、システム導入で実現したいこと、できないと困ることを表に書き出しました。そのうえで、候補のシステムにそれができるかどうか、〇×を付けながら検討します。その結果、「kintone」を利用した開発手法が選ばれました。「kintone」の操作や画面はExcelに近いもの。コミュニケーション機能があるため、情報共有の可能性が広がる点も決め手になったといいます。
同社では、全社員が毎日行う「仕入れ」と「販売」のプロセスをシステム化しました。2016年10月に開発をスタートし、アプリができた12月の段階で、社員全員にIDとパスワードを配布。2017年1月にはプログラマーに来社してもらい、社員一斉にテスト入力の場を設けました。そこで要望を聞き出し、すぐ実現できる要望にはその場で対応。2月1日、ついに本番利用を開始しました。
成果としては、受注・発注をリアルタイムで共有できるようになったことが挙げられます。入力ミスが減ったほか、報告に関するストレスからも解放されました。最後の仕上げを社員全員で行ったことで、社員一人ひとりが自分のこととして業務改善を意識するようになったことも挙げられます。
反省点としては、アプリや項目の名称に解釈のぶれがない定義をすべきだったこと、要望に優先順位を付けて取り組むべきだったことが挙げられています。
なおクラウドシステムの導入により、リモートワークが可能になったのもポイント。北本さんは現在、月に3、4回しか出社しないといいます。通勤時間が、月あたり68時間削減されたというから驚きです。
今後の展望としては、「業務改善を社外にも広げ、新しいサービスにも取り組みたい」と語りました。
「業務ハックのポイントは楽しむこと」ソニックガーデン 藤原士朗さん
最後に登壇したのは、株式会社ソニックガーデン副社長の藤原士朗さん。同社の業務ハック事例から、業務ハックの本質に切り込みました。【写真】
まず、業務ハックの実践について説明。業務ハックには、3つのステップがあるといいます。
1.現状を明らかにする、業務を見える化する
2.ボトルネックを見つけ出して改善案を出す
3.現場で改善案を試行して、振り返り
→1に戻って繰り返す
ポイントは、この3つのステップの中心に、「ビジョン・価値観」があること。業務改善の結果、どこにたどり着きたいのかという価値観が決まっていれば、おのずと手段も決まってくるといいます。
続けて、自社で経費申請業務を効率化した事例を紹介。同社はスプレッドシートを活用しています。従業員が各自でスプレッドシートに記入するため、中間に専任スタッフが入る無駄がなくなりました。また、従業員全員が申請した情報を見られることで、オープンで公明正大な業務フローになっています。なお、現在は「kintone」を使い、スマートフォンで領収書の写真をアップする方法に移行しています。
藤原さんは、ルーチンワークをクリエイティブなワークに変える業務ハックのポイントは、「楽しい」ことだといいます。業務ハックが楽しければ、「プレッシャーを感じる業務担当 vs 不平・不満を抱く現場社員」という構図も変化します。現場の社員が自発的に業務をこなすようになり、業務担当者も現場の社員に感謝されるようになるというわけです。
今後、業務ハックが認知されることで、プロの業務ハッカーが職業としての選択肢になると藤原さんは言います。業務ハックが広がることで、多様な働き方を選べるようになり、社会課題である介護や育児にも良い影響が及ぶことが期待されます。日本の生産性向上に寄与できる可能性もあります。
今後の展望としては、業務ハッカー同士がコラボレーションをしながら、スキルとノウハウを共有して、取り組みを広げていきたいと語りました。
3つの事例紹介から浮かび上がったのは、業務ハックが持つ可能性の大きさでした。業務改善のノウハウが広まれば、さまざまな事情を抱えた人たちが、自分にあった働き方を選べるようになるでしょう。多くの人が、自分のスキルを活かし、仕事を楽しむことができる──そんな未来の社会が垣間見えた勉強会でした。
DATA
業務ハック勉強会@東京 〜 働き方改革にも効く!事例で学ぶ業務改善のノウハウ
■日時:2017年12月15日(金)19:00〜21:00
■場所:東京都日本橋 サイボウズ東京本社
■登壇者:
・業務ハック勉強会について 業務改善から始める働き方改革 〜 わたしが業務ハック勉強会を始めた理由
高木 咲希氏(業務ハッカーズ代表)
・業務改善の事例 (1) kintoneネイティブ世代の挑戦〜 タイピングすらできない理系新卒による、業務改善
中岡 直輝氏(株式会社ネオラボ)
・業務改善の事例 (2) 事業の成長を支える業務改善をしていたら、気付けば通勤なしの働き方改革に
北本 悦子氏 (KFカーバイドジャパン株式会社)
・業務改善の事例 (3) ソニックガーデンの業務ハック事例と、業務ハックの本質について
藤原 士朗氏(株式会社ソニックガーデン)
■主催:業務ハッカーズ
■後援:株式会社ソニックガーデン
執筆者紹介

西東 美智子(さいとう・みちこ) 一橋大学社会学部卒業。国立大学事務職員(企画担当)、出版社編集部を経て、フリーライターとして独立。人事経営、人材育成、採用など、人事に関する幅広い分野を得意とし、さまざまなメディアでの掲載経験を持つ。
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