社員研修を科学する~ビジネスを加速させる人材の育て方~
「辛かった」で終わらせない エキサイトに学ぶ研修のポイント
2018.01.16
採用活動と並ぶ、人事の重要な任務が社員の育成です。社員が継続的に成長を続けることが、ビジネスの成果につながり、企業に成長をもたらします。しかし成長企業の社員研修の実態は、なかなか明らかにされてきませんでした。@人事では、ポータルサイトの運営などのインターネット事業を展開する、エキサイト株式会社に取材。同社の新卒研修は、「研修が一番つらかった」と言う社員がいるほどハードなもの。人事・総務マネージャーの高橋直美さんも、「毎年いろいろな事件が起こる」と新卒研修を振り返ります。
エキサイトではなぜ、このような新卒研修を行っているのでしょうか。研修の狙いと成果を、高橋さんに伺いました。(2017年10月取材、聞き手:尾越まり恵)
高橋直美(たかはし・なおみ)
エキサイト株式会社の経営企画室に所属。
大学卒業後、金融系企業に就職。法人営業部門で経験を積んだ後、人の人生に寄り添う仕事がしたいという思いから、人材紹介会社に入社。系列のエキサイトに2010年に出向、2013年に転籍。現在は経営企画室の人事・総務セクションでマネージャーを務める。
新卒研修の狙いの1つは、違うタイプの人を理解すること
―どのような方針で研修を設計し、社員を育成されているのでしょうか?
当社は社員の7割が中途入社です。2010年4月から毎年6~10人程度、まとまった形で新卒社員も採用するようになりました。現在、約200人の従業員の中には新卒社員も中途社員もおり、年齢も年次もバラバラです。さらに、営業職や企画職、エンジニア職、総務・人事など、多種多様な職種の社員が一緒に働いているため、それぞれの強みを生かすにはどうすればいいかという観点で研修を考えています。
大きな研修は、新卒社員研修と、20代後半から30代前半の若手中堅社員を対象にした「社長塾」があります。社長塾では、事業計画書の作成・発表を通じて、スケールする事業を発想する力を鍛えることを一番の目的としています。あわせて、事業計画の立て方・マーケティング・会社法・IR・財務など、ビジネスの基礎知識の理解向上を図るカリキュラムとなっています。
その他、伊藤忠グループで用意されているeラーニングや通信教育を中心とした、「プロフェッショナル研修」を各自で選択して受けることもできます。
―新卒社員向け研修の具体的な内容について教えてください。
新卒社員向けの導入研修は、4~5月の2カ月間実施します。4月は外部の研修会社に委託する合宿研修と、人事担当者がメインで講師を務める社内研修で社会人の基礎を学びます。5月はプログラミングの基礎を学ぶ技術研修です。
新卒社員は営業や企画などの総合職とエンジニア職に分かれており、採用過程は別なのですが、研修は全員が一緒に受けます。そうすると、職種によって性格の違いが明確に表れます。例えば、チームに分かれてディスカッションをすると、エンジニアは自分の考えがまとまってから発言するのに対し、営業は思ったことをすぐに口にする傾向があります。営業は「言ってくれないと分からない」と言うし、エンジニアは「考えなしに発言されても困る」と言い、時には言い合いになることも。こうして自分と違うタイプの人と出会い、理解を深めることが狙いの1つです。
自分で考えさせるため、あえてフォローしない
―基礎研修では名刺交換の仕方など、社会人としての基礎を学ぶのでしょうか?
まず、4月の頭には外部の研修会社に委託している合宿研修があります。自分とじっくり向き合い、弱みや強み、課題を認識するような内容になっています。
その後、社会人としての基本的なマナーのほかに、取引先の企業に協力していただき、営業体験研修も実施しています。当社の新人たちに、実際に企業を訪問して自社の説明をしてもらい、代わりに取引先企業の新人社員が当社を訪問します。それぞれ面談をして、「名刺の渡し方が逆だった」「説明が分かりづらかった」など、気付いたことをフィードバックし合います。基本的に事前に手厚く教えるようなことはしておらず、新人たちは必死に準備をして、緊張しながら当日に臨んでいます。
あらかじめフォローをしないのは、自分で考え行動できる「セルフドライブ型人材」を育てることが新人研修の目的だからです。採用の段階でも、その素質のある人を採用しています。そのため、まずは自分で考えて、一度実行してみることを大事にしているのです。
プロジェクトワークでは喧嘩やトラブルも
―同期社員がいると、助け合いながら乗り切れそうですね。
基礎研修の山場は、まさにチーム戦です。毎年4月末に「プロジェクトワーク」という発表会を実施しています。ここでは自分たちが人事・採用担当であると想定して、自社をアピールするための15分の作品を作り上げて発表します。アプリのような作品を仕立てたり、劇のような作品にしたり、毎年さまざまな形の発表があります。2チームに分かれて相手チームと競い合い、勝ったチームは社長と豪華なお肉を食べに行くことができます。
チームに1人、自身もこのプロジェクトワークを経験した新卒3年目くらいの先輩をチューターとしてつけます。チューターと人事が全力でサポートしても、毎年いろいろな事件が起こりますね(苦笑)。
―例えば、どんな事件が起こるのでしょうか?
職種による食い違いもありますし、こだわりがあって譲らない人がいたり、大喧嘩になって人事担当者が仲裁に入ったりすることもあります。また、社長やサービスの開発者へのインタビューを企画したりするのですが、インタビュー依頼メールの内容があまりに不足していて、指導をしたり……。発表に間に合いそうにないチームには、段取りよく進めるためのアドバイスもします。
また、社長や役員、社員も自由に発表会を見ることができるので、きちんとした作品にしなければなりません。8年前から毎年実施しているので、見る側にとっては、発表内容がその年の新人の基準になります。「去年のほうが面白かった」となると残念なので、人事も必死にフォローしています。
1年経って振り返ったときに、「研修が一番つらかった」と言う新卒社員もいるくらい、プロジェクトワークは思い出に残るものですね。
営業職もプログラミングを学ぶことで、仕事の質が上がる
―5月の技術研修はどのような内容なのでしょうか?
技術研修では、プログラミングの基礎を学びます。社内のエンジニアが教えることもありますし、今年は外部の企業にお願いしました。
企画職も営業職も、技術的な基礎知識を持っていることで、実現可能性の低い企画を提案したり、非現実的なスケジュールを組んだりすることがなくなります。現場で仕事を始めた時に、少しでも技術に触れたことがあるのと、まったく知らないのとでは大きな違いがあると感じています。
研修後は、年次の異なるチューター2人でサポート
―現場に配属された後は、どのようなフォローをされていますか?
研修後は、配属先で新人1人につき2人のチューターをつけています。1人だと相性が合わなかった場合に誰にも相談できずに孤立してしまう可能性があります。また、年次の違うチューターをつけることで、幅広い悩みをカバーできるようになります。
配属は本人の希望や適性も考慮しますが、教育環境が整っているかどうかも重要なポイントになります。人事では半年後と1年後に、新人とチューター両方と振り返り面談を行ってフォローしています。
―新卒社員の定着率はいかがですか?
動きの速い業界ではありますが、3年で9割程度は残っています。離職率が低い理由の1つは、採用の時点で目線合わせがきちんとできているからだと思います。どれだけ優秀な学生でも、会社の方針と考え方が一致しない人は採用しないことを徹底しています。また、内定が出るまでの間に、選考と関係なく現場の社員と面談する場を2~3回設けています。お互いに理解を深めた上で入社してもらえるので、退職者が少ないのだと思います。
最大の成果は「新人を育てる文化の確立」
―8年間、新卒研修を続けてきて、どのような成果を感じられていますか?
まずは、お互いの仕事を知ることで職種間の理解が深まり、相手を尊敬する気持ちが芽生えたことです。
実は、まとまった数の新卒社員を採用することが決まったとき、即戦力にならないために、社内には反対の声も少なからずありました。ただ、新卒社員や中途社員、職種や年次の違う人など、多種多様な社員がいることが、さまざまなサービスを生み出す原動力になるというのが会社の思いでした。
新卒社員が毎年継続的に入社し、研修を通じて互いが理解し、同期とのつながりを深めながら育つことで生まれてくる文化があると期待したのです。
8年経ち、少しずつ新卒入社の社員の割合も増えてきましたし、初期のメンバーは今、中核を担う存在になっています。こうして新卒入社の社員たちが活躍していることで、新卒採用に対する社内の理解も高まってきました。会社を良くしていこうと採用に協力してくれたり、配属後もみんなで新人を育てようという文化が確立されたりしたことは大きな成果だと感じています。
―今後の社内研修の展望を教えてください。
予算もパワーも限りある中ではありますが、新卒研修で成果が出ている部分を、中途社員や年次の高めの社員への研修にも生かしていきたいと考えています。
特にマネジメントやコミュニケーションに関連する研修をどんどん充実させていきたいですね。当社には時短で働くママ社員も多くいますし、介護をしている社員もいます。働き方改革が求められる中で、企業は事業を拡大していかなければなりません。そのため、マネージャーに求められるスキルはどんどん高度になっていると感じます。コミュニケーション力やマネジメント力を高めることは、人間力を高めることでもあると思います。
一方で、技術も日々進歩しています。企画や営業も技術を知るような取り組みを進めるなど、バラエティ豊かな学びができるような環境をつくっていきたいと考えています。
エキサイト株式会社
伊藤忠商事株式会社を筆頭株主として、設立7年目でJASDAQ上場。2009年にはスマートフォンアプリ開発をいち早くスタートし、2012年からはアジアへの進出にも挑戦。現在は、Apple Watchのアプリ開発や感情認識パーソナルロボットのPepper(ペッパー)向けのアプリケーションの提供など、さまざまな活動に取り組んでいる。
エキサイト株式会社 新卒研修のポイント
・取引先と協力し、営業体験研修を実施。自分で考えさせるため、手厚いフォローはしない。
・プロジェクトワーク研修では、プレッシャーのかかる環境でチーム戦を行う。
・研修後の仕事の質を高めるため、総合職も技術研修に参加する。
・配属後は、年次の違う2人のチューターをつけてフォローを行う。
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執筆者紹介
尾越まり恵(おごし・まりえ) フリーランスライター。福岡県北九州市生まれ。結婚情報誌ゼクシィの制作に携わり、2011年に独立。「女性の生き方」をテーマに取材・執筆を続けている。福山雅治、ホークスが好き。
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