特集

社員研修を科学する~ビジネスを加速させる人材の育て方~


従来の研修はSNS世代に通用しない。自発性を引き出す研修の極意とは?

2017.12.25

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グローバル化や働き方改革の流れが活発になる今、リーダーやマネージャーに期待される役割はますます大きくなっています。大手企業から中小企業まで、年間100社の約3,000人に向けて研修を実施するグローバルトレーニングトレーナーの山口博氏は、企業の悩みに寄り添いながら、演習をメインとしたスキル開発プログラムを提供しています。どんな研修が社員育成に効果的なのか、お話を伺いました。(2017年10月取材、聞き手:尾越まり恵)

山口博(やまぐち・ひろし)

グローバルトレーニングトレーナーの山口博氏グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社 代表取締役。
長野県上田市出身。慶應義塾大学法学部卒業、サンパウロ大学法学部留学。国内外金融機関、IT企業、製造業企業でポストM&Aプロジェクト責任者、トレーニング部長、人材開発部長、人事部長、コンサルティング会社ディレクターを歴任後、現職。ダイヤモンドオンラインにて「トンデモ人事部が会社を壊す」連載中。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。

目次
  1. 価値観の多様化した若者に、従来の研修メソッドは通用しない
  2. 研修のトレンドは「実践」と「生産性向上」
  3. 研修成功のカギは、自発性を引き出すこと
  4. 研修の効果を確かめる「3段階チェック」
  5. 実践的なスキルを教える研修は内製化する
  6. AI時代に人事が果たすべき役割とは

価値観の多様化した若者に、従来の研修メソッドは通用しない

―いま、企業に求められている社員研修とは、どのようなものなのでしょうか? 企業が抱える悩みや、最近の研修のトレンドについて教えてください。

企業の悩みの一つは、課長などの中間管理職が、若手メンバーを巻き込む力が弱くなっていることです。そのため、ミドルマネージャーのスキル向上のニーズが高まっています。20代の若手メンバーはいわゆるSNS世代で、価値観も非常に多様化しています。従来通りのマネジメントでは通用しなくなっているのです。

仕事に対するモチベーションは人それぞれ異なります。私はこれを「モチベーションファクター」と呼んでおり、志向性を「目標達成型」「自律裁量型」「地位権限型」「他者協調型」「安定保障型」「公私調和型」の6つに分類しました。

・目標達成型:経済的利益の獲得など、目的の達成を重視する
・自律裁量型:自由、裁量があることを重視する
・地位権限型:地位や権限の拡充に最も関心がある
・他者協調型:周囲と協力関係を築くことを重視する
・安定保障型:安心できる状況の維持を大事にする
・公私調和型:私生活を重視し公私のバランスをとる

現在のミドルマネージャーの世代は、「目標達成型」や「自律裁量型」の人が多いのに対し、若手社員は「安定保障型」や「公私調和型」が多い。同じ志向性であればあうんの呼吸でうまくいくのですが、自分とは異なるモチベーションファクターの人とはそうはいきません。そのため、若手メンバーに対して、リーダーシップを発揮することが難しくなっているのです。

研修のトレンドは「実践」と「生産性向上」

―その他にはどんなトレンドがありますか?

講師がただ話をする解説型研修から、演習型に切り替えたいというニーズもあります。私が提供しているプログラムは9割が演習です。15~20年前は企業からの反応は薄かったのですが、ここ3年くらいで急速に取り入れたいという声を多くいただくようになりました。

さらに、働き方改革の観点から、生産性向上や労働時間削減のためのプランを作りたいという要望もあります。上司がただ「20時に帰れ」とメンバーに押し付けるようなトップダウンのプランでは効果が見込めないことに気付き、メンバーを巻きこみ、現場の納得感の高いプランを作りたいと望む企業です。このように、社員と一緒に生産性向上に取り組もうとする企業が、まさにこれからの変革の旗振り役を務めていくのだと思います。

―企業に対して、山口さんはどのような研修を提供されているのでしょうか?

私が提供している研修は、「分解スキル反復演習型能力プログラム」というプログラムです。大企業から中小企業までさまざまで、参加者は営業やマネージャークラスが多いのですが、新人研修やインターン研修などで取り入れている企業もあります。

特徴は、スキルを身に着けるための反復演習です。ストレッチ運動のように、ロールプレイやグループ演習を繰り返すことによって課題解決力、時間管理力、業務推進力などのビジネススキルやリーダーシップスキルを養います。

研修成功のカギは、自発性を引き出すこと

―各企業がさまざまな研修を開発、導入していますが、成功する研修と失敗する研修の違いは何でしょうか?

私も20年来、いろいろな研修の形式を試行錯誤してきました。そこで分かったことは、まず、研修のはじめに事務局が長々と注意事項を話すような研修はNGです。「PCを閉じてください」「携帯電話の電源は切ってください」「質問の時間は後でまとめてとります」と、あれこれ指示する研修は効果があまり発揮できないと考えてください。

また、後ろに偉い人がずらっと座って参加者をチェックするような研修も効果が上がりません。さらに、これは私の持論ですが、研修は演習をメインにして、理屈や理論の説明は少なければ少ないほどよいでしょう。

これらに共通することは、参加者の「学びたい」という意欲を自発的に引き出すということです。能動的な姿勢で臨まなければ、受講者にとって身になる研修にはなりません。

―参加者の自発性がカギなのですね。

研修担当は、良かれと思って名札を作り、座席を決めて出席をとり、注意事項を読み上げるような、至れり尽くせりの研修を準備しがちです。

私の研修では、最後に回収する演習シートの名前を見れば分かるために、出席はとりません。発言も質問も、好きな時にしてもらいます。飲み物も同じものを全員の机に用意するのではなく、いくつかの種類のドリンクを中央に置き、好きなものを自由に選んでもらいます。それさえも能動的な動きを触発する手段として利用しているのです。

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研修の効果を確かめる「3段階チェック」

―人事担当としては、研修が実際に役に立ったかどうか気になると思うのですが、山口さんはどのようにチェックされていますか?

私のプログラムでは、2時間を1セットとして、6つのコアスキルを演習によって学びます。この時に演習シートを使用するのですが、そこには研修で学ぶスキルに対して、「知っている」「できる」「人に教えられる」など、自分の状態をチェックできるようになっています。

これを、研修前、研修後、そして研修の1カ月後の3段階でチェックしてもらいます。研修前より研修後、そして、実践の場で活用した1カ月後に、チェック項目が進歩していれば、研修で学んだスキルが身に付いたことになります。第三者からの評価も大事ですが、私は自己評価が最も信ぴょう性が高いと感じています。

実践的なスキルを教える研修は内製化する

―研修を内製化するのと外部に委託するのと、どちらもそれぞれメリットとデメリットがあると思います。どのような基準で選択するべきでしょうか?

専門的な理論や学説など、社内の人間が講師を務めることが難しい分野については、社外の専門家に委託したほうがいいでしょう。

一方で、実践で使える個別のスキルを学ぶ研修は、内製化したほうが効果的だと思います。私は企業研修をする際は、担当者にヒアリングをしてその会社に即した話法や事例を組み込んでいますが、会社のことをよく知る社内のメンバーの方が、より現場に即した研修ができるはずです。

私はもっと、企業が積極的に研修を内製化するべきだと考えています。今、人事部の研修担当は、ほとんどがトレーナーではなく研修の運用や進行担当になっています。そうではなく、ぜひ自ら人材を育成できるトレーナーになっていただきたいと思います。

AI時代に人事が果たすべき役割とは

―研修担当として奮闘している人事の方にアドバイスをお願いします。

人事担当者がトレーナーを務めるためには、現場を知る必要があります。そのため、人事担当者が何年か現場に出て営業を経験するなど、企業の人材を流動化させることもカギになります。とかく人事は閉鎖的になりがちなので、ぜひ変革を起こしてほしいと思います。

最初は誰でも初心者です。見様見真似でも、実践によってファシリテーションのスキルは向上します。まずは短い時間でもいいので、ぜひ運用担当や進行担当ではなく、自ら研修プログラムを作って、実際に講師として研修を実施してみてください。挑戦してみると、ビジネスの問題も明らかになり、人材育成にも貢献できます。また社員の成長の変化も実感できるために、社員の評価もしやすくなるでしょう。そうして人事担当が実際に汗水流して研修をすることで、社員の満足度も上がり、好循環が生まれるはずです。

私自身、長年企業の人事部長や人材開発部長を務めてきて、人事業務に愛着があるために敢えて厳しいことも言わせていただきますが、今は人事代行サービスもあれば、AIも進化しています。ただの進行担当、運用担当のままでは、生き残るのは難しいかもしれません。いま、人事業務はそういう岐路に立っているのではないかと思います。ぜひ自ら進んで社員の育成や能力開発に挑戦してみてください。


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