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採用学4周年記念セミナー・神谷俊氏講演vol.3


内定承諾率を50%以上高めた、採用学研究所の3つの施策

2017.12.08

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ベンダーA社の提案で「採用ブランディング」を強化した結果、エントリー数が1.5倍になったものの、内々定辞退率が40%増加してしまったX社。状況を打開するため協力を求められた「採用学研究所」は、3つの施策で内々定承諾率を50%強アップさせました。採用学研究所・研究員で、同研究所のコンサルタントを務める神谷俊氏の講演から、その具体策をご紹介します。

※この記事は採用学4周年セミナー・神谷俊氏講演「なぜ食品会社Xの内定辞退は増加したのか? 採用学の3つの観点から導かれる仮説」の続編です。

神谷俊(かみや・しゅん)

株式会社ビジネスリサーチラボコンサルタント採用学研究所研究員 株式会社エスノグラファー代表取締役の神谷俊氏株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルタント
採用学研究所 研究員
株式会社エスノグラファー 代表取締役

経営学修士。採用学研究所にて調査・研究を推進する一方、多様な組織に在籍し、独自のキャリアを展開。株式会社エスノグラファー代表取締役、株式会社ビジネスリサーチラボ研究員、面白法人カヤック「社外」人事など兼務。幅広い領域を越境しながら地域・組織などのコンサルティングを手掛ける。

目次
  1. 内定承諾者、辞退者、選考離脱者にアンケートを実施
  2. 仮説と検証で見えてきた、学生が辞退に至るプロセス
  3. 分析結果から導き出した、内定辞退率を下げる3つの提案
  4. エントリーシートの提出は半減し、内々定承諾率は90%に
  5. 単年度で変えられない課題、成果が出たことで生まれる課題
  6. 採用は、さまざまな利害関係者の影響を受けて展開していく

内定承諾者、辞退者、選考離脱者にアンケートを実施

私たちは、X社の採用には「辞退リスクの高い母集団」「職務・企業情報の理解停滞」「入社意欲醸成の停滞」といった問題があるのではないかという仮説を立てました。これらの仮説を検証するために、X社の内定承諾者、辞退者、選考離脱者に対して、アンケート調査を行いました。アンケート内容は、下記の項目などを含めて設問設計されました。

  • 受験業界
  • エントリー数
  • 内々定保有社数
  • X社の志望順位
  • X社の各採用施策の評価
  • X社の業務内容・職場環境等に対する理解度
  • X社の辞退理由
  • X社の選考の印象
  • X社に対するキャリアイメージ
  • 就活プロセスを通しての心理変化…等

そして、調査結果ではX社の採用状況に関する、以下のような実態が抽出されました。

食品会社以外の人気業種と競合していた

食品会社Xは、大手食品メーカー・メガバンク・地銀、総合商社と競合していました。いわゆる人気業界や大手企業と競合してしまっていたんですね。

辞退している人ほどたくさんの内定をもらっている

合格者の平均内定社数は2.6社でした。比較的多い内定者数です。しかし、辞退していった方の平均内定社数がそれを上回る3.5社でした。それに対して、承諾者は1.7社。要するに、選択肢が多い人は、ほとんど辞退したということです。また、他社が評価している学生に対して、被せて内定を出してしまっていたんですね。

情報提供・社員との接点・面接官の質問に不満傾向

採用施策の評価は全体的に良いものではありませんでした。情報提供に不満傾向があったり、社員との接点の少なさを指摘する意見が多かったり、さらに、面接官の質問の意図が分からないと指摘する意見も多くあがりました。受験者の選考満足度も低かった。受験者の選考に対する納得レベルに問題がありました。

印象の良い人ばかりを合格にし、採用基準をないがしろにしている

面接で評価されている学生ほど、人当たりが良かったり、対人折衝能力が高いという傾向も出ました。X社では「ソリューション力」を対象者に求める能力として最初は掲げていたんですけれども、面接官が評価していたのは「元気があって、人あたりがいい人」「面接をうまくこなす人」だったということです。

企業イメージは理解されているが、仕事内容は理解していない

採用時に訴求していたブランドや理念、事業の方向性などは理解レベルが高くなっていましたが、仕事内容の理解レベルは低いものでした。それによって、キャリアイメージに対する不安なども発生している現状でした。

また、辞退意思が強まったタイミングとして、「職場を訪問した時」という傾向が強く出ていました。食品会社Xは「職場見学」を内定後にやっているんですが、職場を見たときに一気に不安があおられて、学生が辞退したというケースがあったようです。「現場を見てみると、聞いていたイメージと全然違う」ということで辞退に至ったということでした。

仮説と検証で見えてきた、学生が辞退に至るプロセス

検証を行った結果をまとめるとこうなります。

学生が辞退に至るプロセス

「採用ブランディング」を進め「エントリーの増加」にコミットした採用を展開した結果、辞退リスクの高い母集団が形成されました。

また、初期スクリーニングでは、適正テスト結果をもとに「ソリューション力」と「適応性」の傾向を持つ学生を選出していたのですが、グループディスカッションや面接ではそれらの能力を見抜くことが出来ず、面接ウケする人材に合格を出してしまっていたんですね。そもそも、スクリーニングデザインが未整備だったということです。

さらに、グループディスカッションや面接で、職務と関連性が低い質問テーマを設定した結果、職務・企業情報の理解が停滞しました。また、エントリーシートの記述ハードルも低かったので、企業や職務に対して情報を収集する機会が限られてしまっていました。それによって、キャリアイメージは具体化されなかった。さらに、それらの選考プロセスの展開が学生の不信感を醸成し、辞退意思が高まった結果としてスペック検討が起きた。学生たちは「より大手企業に行こう」という大手志向そのままに、内定をもらったX社より大手の金融や商社など他業種企業にどんどん抜けてしまった。このようなメカニズムが考えられました。

分析結果から導き出した、内定辞退率を下げる3つの提案

この結果をふまえ、我々は3点の提案を行いました。

内定辞退率を下げる提案内容の要点

1.採用要件の再設計

まず、食品会社X社が採用要件として設定していた「ソリューション力」や「適用性」は、多様な要素が絡み合った資質なんですね。例えば、「ソリューション力」は論理的思考や行動力などが複合された資質ですし、「適応性」も状況把握や対人能力などが複合されたものでした。このように、たくさんの資質を持った人材にアプローチしようとすると、他社と競合しやすいんですねそういった人材はみんな欲しがりますから、さらに面接でも具体的に何を見たらいいかが分かりにくいので、スクリーニングがしにくくなりますし、面接官同士の評価もブレやすいです。採用要件を設計する場合は、こういったこともふまえる必要があります。

そもそもX社では、社内の高業績者の特徴から採用要件を設定したのですが、実はそこにも改善の余地がありました。高業績者のデータですから、入社して一定年数が経った方が多かった。パフォーマンスの発揮時点のデータをもとに採用要件を構成してしまったんですね。「高業績者が持っている能力は、入社前から必要なものなのか」ということも考える必要があります。つまり、先天的に必要なものか、後天的に身につくものかという観点です。

高業績者の持っている資質と同等のものを持っている人材を獲得すべきなのか。それとも、その能力を将来的に身に付けられる資質を持っていれば良いのか。これは大きな違いです。このあたりのことも考えた上で提案を行い、採用要件を再設計しました。

2.ラーニングデザインへの注力

次に、ラーニングデザインについて提案し、設計を進めました。現在の採用プロセスがイメージやブランドを訴求するものなので、より具体的な情報を提供していかなくてはいけないと判断しました。しかし、そういった情報をどんどん投下していっても、学生がその情報を主体的に「消化」してくれなければ企業理解というのは進まない。そのため、選考プロセスを通して応募者が職務・企業情報を効率的に学んでいくプロセスの設計を意識しました。

たとえばエントリーシートの内容の記述ハードルを敢えて引き上げて、職務・企業情報を閲覧して記述前に吟味する必要性を持たせるなど、ですね。そういった機会を随所に盛り込んで設計していきました。

3.面接における対話・スクリーニングの強化(スクリーニングデザイン)

それから面接に関しては、そもそも対話の量が少ない点に問題がありました。そして、基本的な面接スキルが低かったので、そのあたりをどう培っていくかを進めていきました。

具体的には面接官やリクルーターのトレーニングですね。どういった会話の構造にすると、学生の職務理解が高まるのか。あるいは学生の満足度が高まるのか。あまりコミュニケーションデザインを練り過ぎて構造化を進めてもぎこちない感じになるので、バランスを意識して、コミュニケーション設計をしました。

エントリーシートの提出は半減し、内々定承諾率は90%に

採用学研究所によるコンサルティングを徹底して進めた結果、X社の採用はどうなったか。

内定承諾率の推移

戦略的にプレエントリー、本エントリーは大きく減らしました。エントリーシートの提出は56%減ですね。しかし、内々定承諾率は9割となりました。応募してきた人は、まず辞退しない。そのような仕組みに変わりました。

つまり、入ってくるハードルを高くして、本当に来たい人しか選考プロセスにのせない。選考プロセスにのせたら、その企業で戦力化しやすいような学習をしっかりさせる。

最終的に、内々定を出すときには、学生はX社独自の技術やノウハウ、商品コンセプトの価値観や「この企業でやっていけるんじゃないか」という自信が身についている。特に学習に力を入れて、プロセスを展開していきました。

無駄な選考コストを減らし、入社後の活躍可能性を引き上げ、さらに内々定承諾率は50%以上増加しましたので、成果が出たといえると思います。

単年度で変えられない課題、成果が出たことで生まれる課題

結果として課題も残っています。面接官の強化というのは、やっぱり単年度でいきなり変えることはできない。改善はされたんですけれども、まだまだ人当たりのいい学生を評価してしまったり、その場でうまく受け答えする学生を評価してしまったりという傾向はあります。

そして、大きな問題も発生しました。成果が出ましたので、人事部長・人事課長が昇進して、異動してしまったんですね。結果として、後任の若手人事への引継ぎ問題というのが出てきました。

先ほどの戦略はかなり複雑性が高くて、細かいデータ解釈や戦略的な知見が必要になります。この知識を、引き継いだ若手が問題なく受け取れるわけがありません。人事担当者が変わった後、一時的に採用成果も縮小しましたし、現場の協力を得るための交渉や牽引力も低下しました。

採用は、さまざまな利害関係者の影響を受けて展開していく

ここまで、食品会社Xでのコンサルティング事例を報告させていただきました。こちらの事例を通してお伝えしたかったのは、採用の理論というのは一見正しそうに見えるし、それを使えばすぐうまくいくように見えるんですけれども、予算の影響を受けますし、人事担当者の影響も受けますし、ベンダーの影響も受けます。100社あれば100通りの事情がある。

実際にX社も紆余曲折ありました。「製品A」によって採用は大きく変化し、当時のベンダーの提案によって大失敗を招きました。その後、ベンダーを変更して基盤づくりを行い、成果を出したものの、今度は人事担当者の異動で再び問題が浮上したわけです。

着手時の関係図

採用というのは、さまざまな利害関係者の影響を受けながら展開していきます。重要なのは、人事担当者自身が、採用に対してどのような仕事をしていくのか、ここを考え、そして決めることだと思っています。

利害関係に影響されながらも、自らの位置づけを明確に示していくことが重要だと感じています。それでは以上で、私のプレゼンを終わります。

【編集部より】
神谷俊氏による、これまでの講演記事はこちら。

「採用学」に関する、この他の記事はこちら。

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