データが会社を強くする! 北野唯我のロジカル採用理論
給与は社員の「頑張り」より前に「どの事業に配属されたか」で決まる
2017.11.29
ボストン・コンサルティング・グループで事業戦略立案業務の経験を持ち、株式会社ワンキャリアでチーフアナリストを務める北野唯我氏による連載企画。連載四回目のテーマは、誰もが気になる「給与」について。3つのデータから「日本式給与システム」の実態を見ていきます。
HR領域における大テーマ「給与システム」
「給料はどう、決めるべきか」
この問いは、HR領域における永遠のテーマの1つです。結論からいえば、給与は「その人が出した付加価値に準じて高くなるべき」です。ただ問題は、この「付加価値」が何によって決まるのか、です。今回はこのテーマについて、3つの観点から深く掘り下げたいと思います。
データ1:給料差は30歳前半で1.4倍、45歳以降で2倍程度つく(契約形態の差)
まず1つのデータから見ていきましょう。同期内の給料差は、何倍ぐらいつくのでしょうか。これに直接答えたデータは少ないのですが、参考になるデータはあります。
参考:平成 27 年賃金構造基本統計調査の概況(厚生労働省)
上の表は、正社員と非正規社員の給料差を表しています。データを見ると、同年齢の正社員の給料を100としたとき、有期雇用の平均給料は30~34歳で「72」、45~49歳で「53」になるという計算です。言い換えれば、有期職員と正規職員では、給料差は30歳前半で1.4倍、45歳以降で2倍ということです。現代の日本では、「正社員同士の給料差」は、「有期と正規」の差よりは少ないでしょうから、これが1つのベンチマークになるでしょう。
データ2:「加齢による給料の違い」は平均1.8倍(年齢による差)
では、年齢に応じた給料差はどうでしょうか。これは国税庁が出しているデータをもとに比較してみます。
参考:統計表一覧(総務省統計局)
上表は、産業別の「年齢に応じた給料の違い」を比較しています。わかりやすくいうと、例えば「自分が選んだ業種の中で、20歳の人と40歳の人が、どれぐらい給料が違うか?」といったことがわかります。データを見ると、給与の最大と最小を比較した場合、最高で2.3倍、平均で1.8倍の差があることがわかります。つまり、産業によって違いはあるものの、加齢によって給料は1.8倍ぐらい上がる、ということです。これが2つ目のデータです。
データ3:給料が1,000万円以上になれる確率は、産業によって最大20倍近く違う(産業別の差)
3つ目のデータは「産業別の違い」です。こちらについても、国税庁が出しているデータをもとに見ていきましょう。
給料1,000万円以上の人数割合は、金融業、保険業では15.9%。宿泊業、飲食サービス業では0.8%です。つまり、給料が1,000万円以上になる人の構成比は、産業によって最大20倍近く差が存在します。ちなみに、これは、「産業別の生産性」によってほぼ決定づけられています。給料は、粗利をベースに払われるので、「儲かる産業は、給料を払う原資がある」という意味で、驚きはない話です。
(参考:「年俸1億サラリーマン」を観光業に生めるかが日本経済の行く末を決める理由を話します)
契約形態差、年齢差と比べて、圧倒的に大きい「産業別の差」
最大20倍という数字は、先に述べた「契約形態による差」と「年齢による差」の数字と比較すると、圧倒的に大きいことがわかります。そしてこれは、産業単位ではなく、企業単位で見ても、同じ傾向があります。当たり前ですが、すべての会社には「儲かる事業」と「儲かりにくい事業」が存在します。
例えば、上記は、就職人気ランキング上位に入る「三菱商事」の1人当たりの事業部別の粗利です。事業部別の売上総利益を従業員数(連結)で割った値は、最大3.4倍の違いが存在します。もちろん、数字が一番低い「生活産業」は、社員数にしめる「本体の社員」が少ないので、Apple to Apple(=同一条件での比較)ではありませんが、この効果を排除しても、2.9倍程度の差が存在します。このように、事業部別の生産性は、同一の会社でも3倍程度なら普通に差が存在します。
つまり、実は給与というものは、社員の「頑張り」より前に「社員がどの事業に配属されたか」によって強く影響を受ける、ということです。これは私が「アロケーション仮説」と呼んでいるものですが、「すべては人員配置に帰結する」ということです。
論点:「3倍も生産性に差がある」企業の中で、同一の給料システムは不可能ではないか?
さて、このデータから給与について何が言えるか。
端的にいうと、「一括採用→ジョブローテ型の配属システムでは無理がある」ということです。日本は総合職一括採用を中心に行っており、最近はコングロマリット型のビジネスも多いので、仮に同期が100名いたとしても、彼らはそもそもどの部署に配属されるかによって、最大で3~20倍近く、生産性が異なるわけです。その中で、均一的な給料バンドで彼らに合理的に給料を与えることは、ほぼ不可能だと私は思います。
こう語ると「それは総合職か、一般職かの違いで対応する」という反論が聞こえそうですが、すでに論じたように、契約形態による差は「正規と有期」の差を加味しても、45歳でも2倍程度に止まります。つまり、「契約形態の差」よりも「セグメントの差」のほうが実は大きいわけです。
生産性に応じた給与を実現するには「事業部別採用」を行うべき
加えて、海外と国内など、国別の違いを含めると、「生産性の違い」はさらに大きくなります。「同一バンドの給料システム」で、その「生産性の違い」に対応するのは、ほぼ不可能です。
つまり、今の日本の給料システムは、“配属された部署”という「見えない差」が存在しているにもかかわらず、それを「30代後半までわからない形」にするものだと思います。これらを解決するには、「事業部別の採用」と「事業部別の給与体系」をつくることだと私は考えます。こうすれば、生産性と給与の問題は解決することができるでしょう。
さて、今回は「給料は何によって、影響を受けるのか」という論点で3つのデータを見てきました。いかがでしたでしょうか? 少しでも皆さんのお役に立てたとしたら幸いです。
執筆者紹介
北野唯我(株式会社ワンキャリア執行役員兼チーフアナリスト) 新卒で株式会社博報堂に入社。中期経営計画の立案・M&A・組織改編業務を経験し、米国・台湾留学。帰国後、ボストン・コンサルティング・グループでの事業戦略立案業務などを経て、ワンキャリアに参画。現在、メディア事業の統括責任者。一方で23歳の頃から、日本シナリオ作家協会で「ストロベリーナイト」「恋空」などを執筆したプロの脚本家に従事。主な記事に『ゴールドマンサックスを選ぶ理由が僕には見当たらなかった』『田原総一朗vs編集長KEN:「大企業は面白い仕事ができない」はウソか、真実か』など。
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