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シリーズ・生産性革命


サービス残業ゼロへ! 弁護士社長がICTの力で取り組む「生産性革命」

2017.11.14

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日本の労働生産性の低さの一因には、労働者に残業の実態があるにも関わらず、使用者が時間外労働手当を支払わない「サービス残業」の存在がある。

この「サービス残業」を無くすため、ある若手弁護士がICTの分野で起業し、新たなスマートフォンアプリを作成した。その名も「残業証拠レコーダー」。このスマホアプリは、GPSの記録から残業時間を自動的に算出し、残業代不払いの企業への請求の証拠として活用できる。実際に、このアプリを使用して不払い残業代を取り戻した事例も出てきている。ICTを活用した「生産性革命」の事例として、取材を実施した。

目次
  1. スマホのGPSで残業代を自動算出「残業証拠レコーダー」
  2. アプリの存在が、サービス残業を無くすインセンティブに
  3. 約50年間、日本の労働生産性はG7で最下位

スマホのGPSで残業代を自動算出「残業証拠レコーダー」

南谷泰史弁護士 南谷泰史弁護士

残業の証拠を自動的に記録するスマホアプリ「残業証拠レコーダー」を作成したのは、株式会社日本リーガルネットワーク(東京都)だ。同アプリは、2016年5月にアンドロイドアプリとして公開され、現在はiOS版も存在する。日本リーガルネットワーク代表取締役で、現役の弁護士でもある南谷泰史氏は、「サービス残業という悪しき習慣を無くしたかった」と開発の意図を語る。

アプリでは最初に10個程度の質問に答えるだけで、残業代の概算を知ることができる。さらにスマホのGPS機能で、会社にいた時間を労働時間として自動的に記録し、労働基準法や判例、行政通達などに基づいて残業代を算出してくれる。「裁判の証拠」として採用される記録を目指し、GPS記録やその際に残したメモはサーバーに送られ、後から改変することはできない仕様になっている。

残業証拠レコーダー⓵

未払い残業代を会社に請求する場合、同社のサーバーに記録された情報を弁護士に持っていけば、裁判の際に強力な証拠」として未払いの残業代を主張できる、と同社は説明する。実際に、この「残業証拠レコーダー」の証拠を使って、100万円の不払い残業代を獲得した事例もすでに存在している。

アプリの存在が、サービス残業を無くすインセンティブに

残業証拠レコーダー② 南谷代表は、弁護士として労働事件などに関わりながら、会社が「裁量労働制だから残業代は出ない」「定額残業代だから残業代が出ない」といった事実ではない説明を行い、労働者側が「残業代不払い」を自覚していないことが多いと気付いたという。そのため、このアプリでは、最初の質問に答える中で、労働者側が自覚していない不払い残業代の存在を指摘するという機能も付けている。

経営側から見れば「サービス残業」は、痛みを伴わない労働だ。環境が変わらない限り、経営側が自主的に「サービス残業」を無くす取り組みを実施したり、「労働生産性を上げよう」と動くことはなかなか難しい。

南谷代表は「これまでの状況は、会社側にサービス残業を改善しようというインセンティブが少なかったのです。このアプリが一般的になれば、会社側も考えを変えざるを得なくなるでしょう」と社会の変革に期待をかけている。

約50年間、日本の労働生産性はG7で最下位

実際に、日本企業の生産性は非常に低い。日本生産性本部の発表では、2015年の時間あたりの労働生産性(1時間あたりの名目付加価値)は、42.1ドル(単位は米ドル)。この数字は、OECD平均の50ドルを下回っており、G7では最下位だ。OECDトップのルクセンブルクは、1時間あたりの労働生産性が95.0ドルで、日本の2.26倍である。労働生産性の観点からは、日本は世界のトップ先進国とは到底言えない状況となっている。

日本の労働生産性は、近年急激に悪化したわけではない。同発表では、日本の労働生産性はOECD加盟35カ国中19位だったが、日本はこのランキングで1970年から現在に至るまでOECD35カ国中、20位前後を推移しており、G7では約50年間、圧倒的最下位を独走している。

「労働基準法をまともに守れば、中小企業は潰れてしまう。労働基準法は余裕のある大企業の話だ」──。そういった声もネット上では散見される。そのような意見に対して、南谷代表は「中小企業でも、サービス残業がなくうまくやっているところもある。少なくとも利益が出ているのに労働基準法を守れないというのはおかしい。サービス残業をさせなければ利益が出ないというのは、そもそも事業として成立していないのではないか」と厳しく指摘している。

2017年9月25日の解散時の記者会見で、安倍首相は「名目GDP600兆円の達成には『生産性革命』が必要」と強調している。さらに11月1日の会見では「人づくり革命」と「生産性革命」を両輪として、デフレ脱却に向けて取り組む方針を改めて示した。労働生産性向上のためには、まずはサービス残業の是正が不可欠ではないだろうか。

※この記事は合同会社イーストタイムズと協力して作成しています。@人事ONLINEでの公開後、同社が運営する「TOHOKU360」に記事が転載されます。


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執筆者紹介

中野宏一(なかの・こういち) 合同会社イーストタイムズCEO、TOHOKU360副編集長。 1984年、秋田県湯沢市生まれ。東京大学法学部卒、東京大学公共政策大学院修了。VR動画やネットメディア、SNSを活用したコンテンツマーケティング戦略を考案する事業などを展開する。TOHOKU360では副編集長として全記事の校閲責任者を担当。Yahoo!系ニュースサイトTHE PAGEでは、記者として数百万人に読まれるヒット記事を多数執筆。

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