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海外で法制化進む「つながらない権利」 は日本でも主張できるか

2017.11.17

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欧米を中心に、勤務時間外や休日に仕事の連絡を拒否することを認める「つながらない権利」の考え方が広がっています。フランスでは2017年1月1日、「つながらない権利」を認める法律が施行されました。議論は韓国でも白熱しており、日本でも「つながらない権利」に通じる制度を導入する企業が現れ始めています。

現在の日本の法制度では、従業員が「つながらない権利」を主張することは認められるのでしょうか? @人事では社会保険労務士の松井勇策氏にインタビューを実施。「つながらない権利」に関する国内外の状況を解説します。

「つながらない権利」世界各国で異なる動き

海外事例1.フランスでは今年から関連法が施行

フランスでは、2017年1月1日から「つながらない権利法」が施行されています。

この法律は、従業員50人以上の会社に対し、勤務時間外の従業員の完全ログオフ権(メールなどのアクセスを遮断する権利)を定義する定款の策定を義務付けています。現在のところ罰則は設けられていませんが、従業員は「つながらない権利」を侵害された場合、それを理由に訴訟を起こすことが可能になりました。

フランスでは「つながらない権利法」の他にも、週の法定労働時間を35時間と設定していたり、午後9時~翌朝6時の就労を夜間就労として厳しく制限していたりと、労働者の権利を守る規制が数多く存在します。

今後、マクロン大統領により規制を緩和する方向で法改正が進められると予想されていますが、現在のフランスは労働者への保護が手厚い国と言えそうです。(参考:労働者に厳しい? マクロン大統領と、変化するフランスの働き方)

海外事例2.ドイツ大企業2社は対照的な対応

ドイツでは企業主導の取り組みが進んでいます。自動車メーカー・フォルクスワーゲンは、2013年より、夕方6時15分から翌日朝7時まで、従業員の仕事用の携帯電話にメールが転送されないシステムを導入。これは、「勤務時間外に送られてくるメールによって私生活が乱される」という従業員からの苦情を受けての決断でした。

一方、ドイツの自動車企業大手・BMWは、フォルクスワーゲンと対照的な対応を行っています。同社は2014年から、従業員に「上司との相談のうえ、職場以外の場所や勤務時間外で業務をこなすこと」を認めました。BMW人事部の広報担当者は、「仕事と私生活の間に境界線が必要だと考えているが、働き方における柔軟性の利点を損なうような厳格な規則はいらない」と話しています。(参考:勤務時間外のメールなどから労働者を守る、独仏で対策進む-AFPBB News

海外事例3.通話アプリが浸透した韓国「つながらない権利」に賛否

韓国ではやや事情が異なります。2016年に通話アプリ「カカオトーク」の月間利用者数が4000万人を超え(2016年時点での韓国の人口は約5125万人)、「カカオトーク」は会社の業務にも活用されるようになりました。こうした状況を受け、業務時間後も上司や同僚から頻繁にメッセージが送られてくることが、社会問題化したのです。

この問題を解決しようと、韓国の国会では2017年8月に「勤労基準法改正案」の審議が始まりました。改正案ではSNSを通じて行われる直接的な業務指示だけでなく、グループトークルームを通じた間接的な業務指示も制限対象に含まれています。

法案では、「労働時間外にSNSを利用して直接的・間接的に業務指示を出すだけの理由がある場合」は例外的に業務指示を認めています。ただし、労働時間外にSNSで指示を受けることは「延長労働」に該当すると解釈されており、こうした指示を行った場合、雇用者は通常賃金の50%以上を加算して支給する必要があります。(参考:退社後のSNS禁止法案発議、「業務指示続けば延長手当て支給」-中央日報

この法案に対しては「私生活が仕事のストレスから解放される」と歓迎する声がある一方、「政府が個人の携帯電話を監視できない以上、現実的に実効性がない」との反応もあるようです。

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日本の事例 休日・夜間のメール自粛を促す企業が登場

日本でも、一部の企業で「つながらない権利」に関する施策が導入されています。

ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社では、2016年4月から、勤務日の午後10時以降と休日に社内メールを自粛することを全社的に呼びかけています。社員のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を推進することが目的ですが、緊急案件は対象外となっています。

三菱ふそうトラック・バス株式会社は、親会社であるドイツ・ダイムラー社の施策を受け、長期休暇中に電子メールを受信拒否・自動削除できるシステムを2014年12月に導入しました。システムの対象は社内からのメールに限られており、長期休暇中にメールを送信した相手には「いただいたメールは削除されます」というメッセージが返信されます。

マーケティング効率化事業を手掛ける株式会社ロックオンでは、会社との連絡を9日間絶つことを認める「山ごもり連休制度」を設けています。「山ごもり連休」中は、社内からの電話連絡やメールでのコンタクトは一切禁止。社員のリフレッシュを促進すると同時に、連絡を絶っても問題がないよう、業務の共有を普段から徹底することが目的です。この「山ごもり連休制度」は、リクナビNEXT主催の「第2回 グッド・アクション」において最高賞である「ベスト・アクション」を受賞しました。

日本の法制度でも「つながらない権利」は主張できるか

とはいえ日本では、欧米のように「つながらない権利」が浸透しているとは言えない状況です。現在の法制度でも、従業員がメールや電話を無視することは認められるのでしょうか? 東京都社会保険労務士会で広報委員長(新宿支部)を務める松井勇策氏に話を聞きました。

松井 勇策 (社会保険労務士・産業カウンセラー・Webアーキテクト)

松井勇策 東京都社会保険労務士会 広報委員長(新宿支部)。フォレストコンサルティング社会保険労務士事務所代表。名古屋大学法学部卒業後、株式会社リクルートにて広告企画・人事コンサルティングの営業職に従事、のち経営管理部門で法務・監査・ITマネジメント等に関わる。その後、社会保険労務士として独立。IPO支援、労務監査等の人事制度整備支援、ほかIT/広報関連の知見を生かしたブランディング戦略等を専門にしている。

―日本の法律には、フランスで法制化されたような「つながらない権利」に関する規制はあるのでしょうか。

法制度の趣旨が違う部分はありますが、日本でも、同様の権利の主張はできる状態だといえると思います。

まず、労働基準法では1日8時間、週40時間を超えた労働をさせることは、罰則付きで禁止されています。例外的に上記の時間外に労働をさせる必要がある場合は、企業と労働組合や労働者代表との間で「36協定」と呼ばれる、時間外・休日労働に関する労使協定を結ぶことが必要となります。

これによって認められた趣旨や限度時間の範囲内で、例外的に時間外労働を認めるということが法制度の趣旨なのです。業務時間外に、対応する必要がない業務に対応しなくて良い権利は、当然に主張することできるといえます。

―日本で、従業員が帰宅後に電話やメールで仕事の対応をした場合、その時間は給与が発生するのでしょうか。

判例上、職場にいなくても、電話やメールに常に対応しなくてはならない状態であれば「手待ち時間」ということになり、こうした時間は指揮命令下にいるものと見なされ、全ての時間が労働時間となります。賃金支払いの義務も生じます。

業務時間外にやむを得ない場合のみ対応する場合でも、その時間について、時間外や休日の割増賃金を含んだ、賃金支払いの義務があります。

完全に任意で行った行為は指揮命令によるものではないため業務ではないのですが、現行の法制度の運用上、「業務の必要性」というものは広く捉えられています。経営者に近い立場の方や、完全に任意で業務を行う特殊な職種などの場合の他は、任意であって業務でない、と見なされる余地は非常に狭いと言えます。

スマートフォン

「つながらない権利」に企業はどう対応するべきか

―日本で、従業員が帰宅後に電話やメールを無視したことを理由として、解雇事由の一つとしたり、不利益な取り扱いをすることは認められるのでしょうか。

微妙なケースもあると思われ難しい問題ですが、原則として、業務時間外に業務を行わないこと自体は当然のことですので、そのことをもって処分の対象にすることは不当性が高いと思います。

業務時間外とされている時間に、必ずメールや電話に対応しなくてはならないような場合は、例外的な場合であれば、事前に時間を指定して労働時間とする。頻繁に生ずるようであれば、そもそも労働時間の考え方と業務の実態が合っていないため、社内の制度自体を見直す必要があると思います。

―現実的に、従業員が会社に「つながらない権利」を主張したとき、人事としてどのような対応が適切でしょうか。

労働時間に関する法制度は、労働関連の法制度の中でも基本的で重要なものです。そのため、問題になっている状況をよく聞いて慎重に対応することが必要です。

そして、その従業員の方の、部門のマネジメントの仕方や、制度自体に不適切な部分がないかどうか、よく見極めて対応することが必要だと思います。

必要のない業務を業務時間外に行わせているような場合は、社内でのマネジメントや仕組みに問題があると考えられ、直す必要が高いと思われます。

大切なのは「つながる必要のない仕組み」を作ること

―今後も見据えたときに、企業としてはどのようなことに気を付けていくべきなのでしょうか。

現在社会的にも「働き方改革」が話題になっていますが、中心となる考え方として「労働生産性の向上」ということがあります。これは、労働者の時間当たりの生産性を上げることが、多様な働き方が求められる中で発展するために必要となる、ということです。

この労働生産性の向上ということには、必要な業務とそうでない業務を分別し、情報共有や仕事の仕方を明確化・効率化し、労働時間を必要以上に増やす必要がないようにする、という趣旨も含まれています。

労働時間外に「つながる必要がない」ような仕事のしくみを作る必要性が、社会的に高まっていると言えると思います。

【@人事編集部】

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