法改正の内容と実務のポイントを解説
育児目的休暇とは? 平成29年改正育児・介護休業法のポイント
2017.10.30
平成29年1月1日に引き続き、10月1日にも育児・介護休業法の変更がありました。今回の変更と人事担当者が対応すべきポイントについて、説明いたします。
※平成29年1月1日の法改正について詳しくはこちら。
平成29年10月1日施行の育児・介護休業法の改正内容
1. 2歳まで育児休業が取得可能に
次のいずれにも該当する場合には、事業主に申し出ることにより、子が2歳になるまで育児休業が可能になります。
(1)子が1歳6ヶ月に達する日において、従業員本人又は配偶者が育児休業をしている場合
(2)保育所に入所できない等、1歳6ヶ月を超えても休業が特に必要と認められる場合
この改正にあわせて、雇用保険の育児休業給付金も2歳まで受給可能となります。(子の誕生日が平成28年3月31日以降の場合が対象です。)
2. 子どもが生まれる予定の方などに育児休業等の制度などのお知らせ
企業は、従業員やその配偶者が妊娠・出産したことを知ったとき、又は家族を介護していることを知ったときに、関連する制度について、個別に制度を周知するための措置を講ずる努力をしなければなりません。
従業員のプライバシーを保護する観点から、従業員が自発的に企業に知らせることが前提になります。そのためには、相談窓口を設置する等の、従業員が企業に知らせやすい職場環境づくりが重要になります。
3. 育児目的休暇の導入促進
企業は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員について、育児に関する目的で利用できる休暇制度を設けるよう努力しなければなりません。
いわゆる配偶者出産休暇や、入園式、卒園式などの行事参加も含めた育児にも利用できる多目的休暇などが考えられますが、時効により消滅する年次有給休暇の積立による「育児に関する目的で利用できる休暇」を措置することなども含まれます。
人事担当者が取り組むべきことは? 規則の見直しと周知徹底
1. 就業規則を見直しましょう
保育所に入れない場合などは2歳まで育児休業が取得可能になったことを、就業規則や育児・介護休業規程に反映させる必要があります。昨年からの育児・介護休業規程の変更が未対応である場合は、合わせて修正しましょう。
2. 従業員に周知しましょう
就業規則や育児・介護休業規程の周知はもちろんですが、それだけでは十分とはいえません。
出産・育児予定の女性従業員については、産休・育休の予定を報告してもらえるため企業側も制度の案内をしやすいですが、配偶者が出産する男性従業員や、介護が必要な従業員については、企業が状況を把握しにくいことがあります。
よって企業側では、従業員に一斉メールで制度改正の連絡をしたり、朝礼等の話題に加えたり等の工夫が必要です。会社のイントラネットに情報を載せたり、冊子などを作成したりしてもよいでしょう。従業員に育児・介護休業の制度を知っていただき、企業に相談しやすい雰囲気を作るようにしましょう。
3. 育児目的休暇の導入を検討しましょう
育児休業が終了し復帰した後も、育児が理由で会社を休まないといけない事情は発生します。子の看護休暇の制度もありますが、1年間に5日、子供が2人以上の場合は10日、と十分とはいえない日数です。
育児に関する特別休暇や、時効により消滅する年次有給休暇を育児目的で積立できる制度などは、従業員に大変喜ばれます。努力義務であり法令で義務化されたものではないですが、従業員の定着率アップや企業のイメージアップにもつながりますので、ぜひこの機会に導入の検討をお勧めします。
気を付けるべきことは? 丁寧な説明でトラブルを回避
1. 制度の対象者を明確に
制度の案内をするときは、
- 対象者の範囲
- どの制度が対象になるか
について、人事担当者がまず正確に理解し、従業員に的確な説明をしましょう。
例えば育児休業や介護休業は、入社1年未満の従業員や1週間の所定労働日数が2日以下の従業員は対象外としている企業もあります。
また休業自体は取得できるとしても、雇用保険の育児休業給付は、休業開始前の2年間に給与の支給が12ヶ月以上ない場合には支給されないなどの細かいルールがあります。
従業員にとっては大切な問題になりますので、どの制度が該当するか、どの給付が対象になるか等の情報をきちんと整理して、従業員にわかりやすく説明することが大切です。
2. 手続はもれなくタイムリーに ~育児休業給付金の延長申請~
保育園に入れない等の理由で育児休業給付金を2歳まで延長申請する際には、市区町村が発行する「保育所入所不承諾通知書(入所希望日が子の1歳6ヶ月到達日前のもの)」などをハローワークに提出する必要があります。
ただし、市区町村によっては、入所希望日を毎月1日と限定していることがあるため、保育所入所申し込みのタイミングによっては入所希望日が翌月になってしまい、育児休業給付金の延長ができないことがあります。
この辺りの注意事項は従業員に事前に説明し、トラブルにならないようにしましょう。
育児・介護休業法やそれに伴う給付制度については、法改正も多くルールが複雑ですので、社会保険労務士等に相談してもよいでしょう。
知っておくと便利な情報は? 電子申請と助成金
1. 電子申請で事務作業の簡略化
育児休業給付金の支給申請書を紙でハローワークに提出する場合は、毎回申請用紙に従業員の押印が必要です。電子申請が普及する以前は、毎回、人事担当者と育児休業をしている従業員とで郵送のやり取りをしていたものでした。
電子申請で支給申請をする場合は、従業員の同意書が必要ですが、この同意書は使いまわしができますので、毎回の申請の度に従業員に押印を依頼する必要はありません。
このような電子申請等のインフラをうまく利用して、育児休業中の従業員、人事担当者それぞれの事務作業にかかる手間を最小限にしましょう。
2. 助成金の利用
従業員の育児休業取得により企業が受けられる助成金には「両立支援助成等助成金」の育児休業等支援コースや出生時両立支援コースなどがあります。(中小企業主が対象)
このうち、育児休業等支援コースについては、あらかじめ育休復帰プランを作成し業務の引継を行うなど、従業員が育児休業に入る前に必要なステップがあります。
これらの制度を利用すれば、従業員が働きやすい環境を整えられ、かつ企業が助成金を受けられるというダブルのメリットがあります。社会保険労務士などにも相談の上で情報収集し、計画的に準備していくとよいでしょう。
【関連情報】
・育児・介護休業法について(厚生労働省)
人事総務業務の基本や注意点がわかる「業務ガイド」
執筆者紹介
永井知子(特定社会保険労務士) コスモポリタン インターナショナル HRソリューションズ代表。 青山学院大学大学院 法学研究科 ビジネス法務専攻 人事労務コース 修士課程修了(ビジネスロー)。イギリスで語学留学後、外資系企業の人事部やアウトソーシング会社にて10年以上勤務。主に給与計算・社会保険事務・就業規則見直し・労務相談等の業務を担当。海外赴任に伴う給与計算・社会保険事務、外国人の労務管理について専門誌で多数執筆。
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