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特集

総選挙の結果で雇用環境はどう変わる?


2017年衆院選、各政党の雇用・労働政策比較

2017.10.20

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第48回衆議院議員総選挙が2017年10月22日に投開票を迎える。安倍首相は衆院解散を表明した9月25日の記者会見で、今回の選挙を「国難突破解散」と位置づけ、教育への投資や社会保障の充実を訴えた。

一方、主要メディアでは解散以降、憲法や安全保障といったテーマの議論が先行し、雇用・労働政策については各党の主張があまり伝えられていない印象を受ける。そこで今回は、各政党の今回の選挙における公約・政策集(マニフェスト)等を参考にしながら、選挙後の雇用環境について考えていきたい。

参考:安倍首相が推進を発表した「生産性革命」「人づくり革命」とは何か

目次
  1. 就業者が増え、人手不足も生じはじめた現在の雇用環境
  2. 非正規雇用は一環して増加、正規雇用は2015年から増加に転じる
  3. 労働・雇用に関する各政党の政策
  4. 雇用・労働関係政策で注目すべき争点は?

就業者が増え、人手不足も生じはじめた現在の雇用環境

まず、現政権下における企業・労働者の環境の変化を振り返る。

自民党・公明党の連立政権である第2次安倍政権は、2012年の政権発足以降推進してきた、いわゆる「アベノミクス」の成果を今回の選挙でも強調している。自民党のマニフェストでは、「正社員有効求人倍率初の1倍超え(2017年7月)」、「就職内定率過去最高の97.6%(2017年4月)」、「就業者数185万人増(2016年現在6,456万人)」など、特に雇用状況の改善が大々的にアピールされている。

確かに景気は回復基調にあるが、その上で、こうした数字が全てアベノミクスによる政策効果によるかは検証が必要だろう。特に正社員有効求人倍率については、定年退職者の増加をはじめとした「生産年齢人口の推移」が一因として挙げられている。

非正規雇用は一環して増加、正規雇用は2015年から増加に転じる

厚生労働省が2017年5月9日に公開した調査結果「非正規雇用の現状と課題」によれば、非正規雇用者は1994年(平成6年)から一貫して増加傾向にあり、2016年(平成28年)には2023万人に達した。正規雇用労働者は、1994年(平成6年)以降、2014年(平成26年)までゆるやかに減少し続けていたが、2015年(平成27年)については8年ぶりに増加に転じ、2016年(平成28年)も増加した。

非正規雇用の増加については、2013年に施行された改正高年齢者雇用安定法により、定年退職者の再雇用が促進されたことが要因として指摘されている。一方、総務省統計局の統計では、世代を問わず非正規雇用者が増えているデータがある。各政党から提示される数字については、さまざまなな観点からの評価が必要になるだろう。

参考:非正規雇用比率「4割大台乗せ」の正しい見方(東洋経済ONLINE)

労働・雇用に関する各政党の政策

ここからは、公開されている選挙公約から、各党の雇用・労働政策について述べた箇所を抜粋、比較する。

自由民主党

自民党の2017年政策パンフレット

■雇用環境
・女性、若者、高齢者、障害や病気のある方やその家族などの就労社会参加を支援するガイドライン策定
・テレワークや副業などの柔軟で多様な働き方を進める

■労働環境
・働き方改革を推進
長時間労働を是正。賃金などの待遇について、雇用形態ではなく、職務内容によって校正に評価される仕組みを導入
・同一労働同一賃金の実現
・最低賃金1,000円を目指す。各産業や地域の中小企業の実情を踏まえたきめ細かい支援

■関係する制度
・50万人分の介護の受け皿を整備、32万人分の保育の受け皿を整備

■解説
自由民主党の選挙公約では、前述のようにアベノミクスの成果として雇用改善が挙げられており、アベノミクスによる経済活性化が雇用環境の改善につながるという立場だ。一方で労働環境の改善については6つの大項目の中では言及されていない。

より詳細な公約が書かれた「政策バンク」を参照すると、「働き方改革」の推進が掲げられており、同一労働同一賃金、最低賃金1,000円といった、野党と同じような主張が並んでいる。ただし「柔軟で多様な働き方を進める」とあることから、雇用の柔軟化・流動化を推進する立場と言えるだろう。

参考:政策パンフレット2017(自由民主党)

公明党

公明党の2017年衆院選重点政策

■雇用環境
・地方創生、地域活性化(農業、観光)で地域雇用の創出に取り組む
・非正規労働者の能力開発機会の充実などにより、処遇改善や正社員転換

■労働環境
・教員の働き方改革(教職員定数の抜本的な拡充や、学校運営に必要な多様な専門スタッフ等の配置→長時間労働の改善)
・働き方・休み方改革(罰則付きで長時間労働の是正、同一労働同一賃金、有給休暇の取得促進)
・労働基準監督署の執行強化による「ブラック企業」、「ブラックバイト」への対策を強化
・建設業、運送業、自動車整備事業の労働生産性の向上、取引環境の適正化、労働環境の改善
・月曜午前を半休にする「シャイニングマンデー」
・全国加重平均1,000円をめざして最低賃金を年率3%を目途として着実に引き上げ
・「中小企業・小規模事業者の働き方改革を支援するため、労働時間の短縮や勤務間インターバル制度導入への助成金を大幅に拡充

■関係する制度
・内部留保(現預金等)の蓄積や労働分配率の低下といった課題に対応するため、企業の内部留保を「見える化」する

■解説
公明党も、選挙公約のトップには雇用・労働政策について特に書かれていないが、労働環境改善のための具体的な提言が目立つ。必ずしも連立与党の自民党と方向性が共通しているわけではなく、教員や建設業・運送業など特定の業種に言及した政策があるのも特徴的。月曜午前を半休にする「シャイニングマンデー」を提唱しているのも公明党オリジナルだ。

参考:2017衆院選重点政策(公明党)

立憲民主党

立憲民主党の2017年政策パンフレット

■雇用環境
・正社員の雇用を増やす企業への支援
・赤字の中小企業・小規模零細事業者への社会保険料負担減免

■労働環境
・長時間労働規制
・最低賃金引き上げ
・同一労働同一賃金

■関係する制度
・中間支援組織やNPO団体などを支援する「新しい公共」の推進
・公務員の労働基本権の回復、天下り規制法案の成立

■解説
立憲民主党は、政党設立まもないため公約の具体性にかけるが、見出しに「暮らしの立て直し」を掲げるなど労働政策について言及している。特に雇用環境における2つの政策は、労働者個人ではなく企業への支援打ち出している点で、今回の衆院選で選挙協力している社民党や共産党との違いと言えるだろう。

参考:政策パンフレット(立憲民主党)

希望の党

希望の党の2017年政策パンフレット

■雇用環境
・再就職支援制度の抜本拡充
・正社員雇用を増やした中小企業の社会保険 料負担を免除する「正社員化促進法」を制定

■労働環境
・働き方改革の推進
・「時差 Biz」による「満員電車ゼロ」実現
・残業、休暇、給与などに関する要件を明確化し、該当企業の 名前を公表することにより、「ブラック企業ゼロ」を目指す
・同一価値労働同一賃金

■関係する制度
・内部留保を雇用創出や設備投資に回す
・金融機関に対し「経営者保証に関するガイドライン」の徹底を図ることにより、一定の要件を満たせば 経営者などに個人保証を極力求めず、保証債務履行時に保証人に一定の資産を残すことを認めていく

■解説
希望の党は、現政権への対抗軸とした経済政策「ユリノミクス」を打ち出しており、中小企業支援や雇用対策を見出しに掲げる一方、「働き方改革の推進」など現政権の政策に追従した政策も散見される。「満員電車ゼロ」などのキャッチーな政策がいかにも希望の党らしいが、立憲民主党と同様に、中小企業を直接支援する法案も掲げている。マニフェストにある「規制改革と社会実験を大胆に進める」という表現が、党の意気込みを示していると言えるだろう。

参考:政策パンフレット(希望の党)

日本維新の会

日本維新の会の2017年維新八策

■雇用環境
・雇用の7割を担う中小企業の振興策を強化
・労働市場の流動化と労働移動時のセーフティネットの充実を同時に推進

■労働環境
・労働時間ではなく、仕事の成果で評価する時間給から成果給へ(ホワイトカラーエグゼンプション)
・労働契約の終了に関するルールを明確化し、解雇紛争の金銭解決を可能に
・管理職・秘書の深夜割増廃止
・同一労働同一賃金法〜年功序列型の職能給から職務給へ

■関係する制度
・民間保育所の保育士の待遇を改善
・高齢者の「働く」「学ぶ」を支援(インターバル規制をはじめとするシニア向け労働法制整備)
・公的職業訓練を時代に即したものに見直す
・介護規制の地方分権化

■解説
雇用の流動化と、雇われる立場のセーフティネットの両立を掲げているのが非常に特徴的だ。ホワイトカラーエグゼンプション の実現を掲げているほか、解雇を規制するのではなく金銭的解決を明確にすることを主張するなど、より柔軟で流動的な労働環境の実現を標榜しており、労働者の権利保護を訴える公明党や野党との違いが際立つ。(ホワイトカラーエグゼンプションについてはこちらの記事が詳しい)

参考:2017維新八策(日本維新の会)

日本共産党

日本共産党の2017年総選挙/各分野の政策

■雇用環境
・解雇規制法をつくる
・労働者派遣法を抜本改正し、派遣労働は一時的・臨時的な業務に厳しく制限
・非正規社員から正社員へ
・真の同一労働同一賃金、均等待遇 
・高齢者の就労促進

■労働環境
・残業時間の上限規制(週15時間、月45時間、年間360時間)の法制化
・連続11時間の休息時間の確保、労働時間管理の強化、有給休暇取得の促進
・残業の割増賃金率を引き上げる、「名ばかり管理職」を規制、
・「サービス残業」を根絶、離職数などの情報公開、
・「すぐどこでも時給1,000円」を実現し、1,500円をめざします。
・大企業の下請けいじめを規制して中小企業を支援
・ブラック企業規制法案(サービス残業根絶、企業情報公開、パワハラ防止)

■関係する制度
・パワハラ防止
・企業の内部留保を使った賃上げや正社員化を実現
・保育士の賃上げと配置基準の引き上げ

■解説
企業の利益より労働者の権利を守ることを中心とした各種政策を掲げており、立場は鮮明だ。賃金、労働時間、解雇、非正規雇用など様々な面において、ルール化や規制を求めている。一方で、企業が雇用しやすくなる仕組みについての言及はあまりなく、正社員雇用や高齢者の就労を推進すると述べるにとどまっている。

参考:2017総選挙/各分野の政策(日本共産党)

社民党

社民党の2017年政策

■雇用環境
・非正規・有期雇用から正社員への転換促進
・長時間労働を是正して300万人分の正社員雇用を送出

■労働環境
・減少した賃金回復
・最低賃金は1,000円以上を実現し、1,500円を目指す。中小企業へ税制面の支援
・同一価値労働・同一賃金
・長時間労働の上限規制
・非正規雇用者の賃金を引き上げ、均等待遇の実現
・ブラック企業・ブラックバイトの根絶
・「賃上げ目標」を設定し、月例賃金アップに政策を総動員

■関係する制度
・ハローワーク等での心の悩み相談、就労と生活支援などワンストップ窓口
・ディーセント・ワーク(人間らしい尊厳のある働き方)とワークライフバランスの実現

■解説
共産党と同様、労働者の権利を守ることを中心とした各種政策を掲げている。「ディーセント・ワーク(人間らしい尊厳のある働き方)」と「ワークライフバランス」といった表現が見られ、より労働者の生活に具体的に言及しているものの、大きな差別化はできていない。

参考:社民党OfficialWeb│政策(社民党)

日本のこころ

■雇用環境
言及なし

■労働環境
・同一労働同一賃金の徹底
・労働時間の短縮
・公正かつ効率的に生産要素を割り振る社会システム(特に資本市場・労働市場)の構築、失敗しても再チャレンジ可能なセーフティーネットの整備を図る

■関係する制度
・投資効果の高い公共事業の拡大
・徹底した競争政策(新規参入規制の撤廃、敗者復活を可能とする破綻 処理制度等)による競争力の強化を図る
・より付加価値の高い産業に労働力が円滑に移動できる流動性の高い労働市場を形成する
・保育士への支援拡大

■解説
雇用政策については言及が見られない。基本的に経済政策においては安倍政権を肯定する立場だが、「規制緩和と競争による経済の活性化」という自由主義的な主張と、「公正かつ効率的に生産要素を割り振る社会システム」という社会主義的な主張が織り交ぜられており、オリジナリティを出そうとしている。

参考:政策実例を発表しました(日本のこころ)

幸福実現党

■雇用環境
・「ブラック企業」問題については、対策を強化するとともに、雇用の流動性を高めることで同問題の根本的な解決を図ります
・解雇規制の緩和

■労働環境
・子育て終了後の仕事復帰を支援、テレワークを推進
・同一労働同一賃金の法制化には反対、経済成長を通して、非正規雇用の待遇改善を図ります。民間の自由な経済活動を守る
・時間外労働規制の強化に反対
・芸能界特有の過酷な労働環境の是正を図ります

■関係する制度
・大胆な規制緩和により、国民生活への政府関与を大幅に縮小し、民間の自由を拡大します。医療や農業、雇⽤、教育や保育、都市開発など、あらゆる分野での経済活動の活性化を促します
・起業ファンドの創設を含め、若者によるベンチャー・ビジネスに対する支援を拡充

■解説
唯一、同一労働同一賃金に反対の立場を表明しており、解雇規制の緩和など徹底的な自由主義的政策を掲げている。

参考:幸福実現党の政策(幸福実現党)

雇用・労働関係政策で注目すべき争点は?

電通社員の過労自殺やNHK職員の過労死が報道され、ブラック企業という言葉も一般化する中で、長時間労働や最低賃金の是正といった政策はほぼ全ての政党の公約に盛り込まれており、争点とはならない状態だ。特に、「同一労働同一賃金」については、幸福実現党をのぞいた政党全てが掲げているため、その実現性や内容の差異については、今後の国会審議などで詳しくチェックしていく必要がある。

また、冒頭で解散が宣言された今年秋の臨時国会においては、元々「高度プロフェッショナル制度」を柱とした労働基準法の改正案が審議される予定だった。この法案は、一部の野党からは「残業代ゼロ法案」と揶揄されており、労働団体や日本共産党からは「長時間労働と過労死を促進する」「『過労死防止法』の流れに逆行している」などと批判されている。各党が「労働基準法改正案」についてどのような考えを持っているかも、注目すべき争点として挙げられるだろう。

雇用者と被雇用者を取り巻く環境は、高度経済成長期のころとは大きく変化しているが、政策論争が充実しているとはいい難い状況にある。 日本企業が今後も世界への競争力を維持していくためには、過労死など悲惨な労働災害に押される形での議論を繰り返すのではなく、企業の自主的な取り組みの中から被雇用者とのよりよい関係が生まれ、それが政治に反映されるといった循環が求められている。

執筆者紹介

漆田義孝(うるしだ・よしたか) NPO法人メディアージ 代表代行。1983年生まれ。東北大学文学部卒。人材業界で企業の人材採用や大学生の就活支援を担当し、東日本大震災後に独立。NPO法人メディアージでは、2012年から政治への関心を高めるための情報発信を行っており、2017年仙台市長選での情報発信の取り組み は、マニュフェスト大賞シティズンシップ推進賞にノミネートされている。

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