働きやすい会社作りに向けて
「労働時間等見直しガイドライン改正」対応のための3つのポイント
2017.10.17
厚生労働省は平成29年10月2日、「労働時間等見直しガイドライン」および「育児・介護休業指針」が改正され、10月1日から適用されていることを発表した。具体的にガイドラインの何が見直され、企業にはどのような影響が出るのか? 特定社会保険労務士の藤原伸吾氏に話を聞いた。
見直しは「転職しても不利にならない仕組みづくり」のため
特定社会保険労務士 藤原伸吾氏
社会保険労務士法人ヒューマンテック経営研究所代表社員。東京都社会保険労務士会理事。労働関係諸法令をめぐる企業の労務相談、就業規則等の制改定、M&Aにかかる人事労務面からの総合支援やグループ経営強化支援、IPO支援等のほか、トータル人事制度の企画・導入指導など、人事労務全般にわたるコンサルテーションを手がけている。
――このたび改正された「労働時間等見直しガイドライン」および「育児・介護休業指針」は、どのようなものなのでしょうか?
労働時間等見直しガイドライン(正式には「労働時間等設定改善指針」)とは、労働時間等設定改善法に基づく指針であり、労働者の健康と生活に配慮しつつ、多様な働き方に対応できるよう労働時間等の設定を改善するとともに、労働時間短縮の推進や多様な事情への配慮と自主的な取り組みの推進等を図るために制定されたものです。
また、「育児・介護休業指針」とは、育児・介護休業法に基づく指針であり、子の養育や家族の介護を行う労働者等の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう事業主が講ずべき措置等について定めたものです。
このたび、この2つの指針の見直しが行われ、平成29年10月1日から適用されていますが、これらの見直しは、同6月9日に閣議決定された「規制改革実施計画」において「転職しても不利にならない仕組みづくり」の実現を図るために制定されたものです。
法的拘束力はなく、自主的な取り組みの推進を図るためのもの
――これらの内容に反した場合に罰則などの適用はあるのでしょうか。
これらの指針は、事業主の自主的な取り組みの推進等を図るために作られたもので、法令ではなく指針として定められたものであり法的な拘束力はありません。したがって、これらの指針の趣旨に沿う取り組みをしていないからといって罰則が適用されることはありません。
「労働時間等見直しガイドライン」3つの主な改正点
藤原氏によれば「労働時間等見直しガイドライン」の主な改正点として挙げられるのは以下の3点だ。
1.子どもの都合に合わせて、労働者が有給休暇を取ることへ配慮を求める
ガイドラインには新たに「地域の実情に応じ、労働者が子どもの学校休業日や地域のイベント等に合わせて年次有給休暇を取得できるよう配慮すること」という文言が盛り込まれた。厚労省は「平成30年4月から、キッズウィークがスタートします。分散化された子どもの学校休業日に合わせて子供たちの親を含め、労働者が年次有給休暇を取得できるようお願いします」と理解を求めている。
2.公民権の行使・公の職務を執行する労働者のための休暇制度を検討要請
ガイドラインでは新たに、「公民権の権利を行使し、または公の職務を執行する労働者のための休暇制度等を設けることについて検討すること」という内容が盛り込まれた。「公民権の行使」「公の職務の執行」についてはそれぞれ、以下のものが該当する。
公民権(出典:行政解釈、昭63.3.14基発第150号)
公民に認められる国家又は公共団体の公務に参加する権利。
【具体例】
1.公職の選挙権、被選挙権(選挙運動は該当しない)
2.最高裁判所裁判官の国民審査
3.特別法の住民投票
4.憲法改正の国民投票
5.地方自治法による住民の直接請求
6.選挙人名簿の登録の申出
7.民衆訴訟、選挙人名簿に関する訴訟
※編集部注
個人としての訴権の行使(私人として民事訴訟をする場合など)は、公民権の行使には該当しない。
公の職務(出典:行政解釈、昭63.3.14基発第150号)
1.国又は地方公共団体の公務に民意を反映してその適正を図る職務
【具体例】
衆議院議員その他の議員、労働委員会の委員、陪審員、検察審査員、労働審判員、裁判員、法令に基づいて設置される審議会の委員等
2.国又は地方公共団体の公務の公正妥当な執行を図る職務
【具体例】
民事訴訟法による証人、労働委員会の証人
3.地方公共団体の公務の適正な執行を監するための職務
【具体例】
選挙立会人など
3.初めて年次有給休暇を付与するまでの「継続勤務期間」の短縮を検討要請
ガイドラインには新たに「仕事と生活の調和や、労働者が転職により不利にならないようにする観点から、雇入れ後初めて年次有給休暇を付与するまでの継続勤務期間(※法律上は6カ月)を短縮すること、年休の最大付与日数(※20日)に達するまでの継続勤務期間(※法律上は入社後6年半)を短縮すること等について、事業場の実情を踏まえて検討すること」が盛り込まれた。
※ガイドライン本文にはない記述。
年休取得率を70%に引き上げる目標のため、推進が求められる
――企業としては、具体的にどのような対応が必要でしょうか。
特に「1」は、平成32年までにわが国の年休取得率を50%から70%に引き上げる目標の実現のために、平成30年度より導入される「キッズウィーク」(地域ごとに学校の夏休み等の長期休業日を分散化することで、大人と子供が一緒にまとまった休日を過ごす機会を創出しやすくするための取り組み)と合わせて、取り組みの推進を図ることが求められています。
また、改正育児・介護休業指針では、法律上、子の看護休暇および介護休暇は、労使協定を締結することにより6カ月未満の労働者を除外することができることとされていますが、労使協定を締結する場合であっても、入社6カ月未満の労働者が(子の看護休暇および介護休暇を)一定の日数取得できるようにすることが望ましいとしています。
指針が求める措置について制度の変更を検討する場合には、他社事例などをもとに各休暇制度等の検討を行うとともに、就業規則や育児・介護休業規程、さらには休暇期間中の給与支給の有無などについて給与規程等の見直しを行ったうえで、社内への周知啓発を図ることが重要となります。
指針に沿った取り組みは、人材の確保・企業の発展にプラスに
――このほかに、企業に及ぶ影響として、どのようなことが考えられますか?
2つの指針が改正されたことですぐに企業に影響が及ぶことはあまり考えられませんが、これらの指針に沿った取り組みを行うことは、人手不足が厳しくなる中、優秀な人材を確保し定着させるとともに、企業を成長・発展させるうえでプラスの影響をもたらすものと考えられます。
【参考】
労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)、育児・介護休業指針が改正され、平成29年10月1日から適用されています(PDF:厚生労働省)
【編集部おすすめの「ホワイトペーパー」】
体系的にまとめられた情報の中から必要な部分をパッケージングした業務に役立つ資料です。
@人事では『人事がラクに成果を出せるお役立ち資料』を揃えています。
@人事では、会員限定のお役立ち資料を無料で公開しています。
特に人事の皆さんに好評な人気資料は下記の通りです。
下記のボタンをクリックすると、人事がラクに成果を出すための資料が無料で手に入ります。
今、人事の皆さんに
支持されているお役立ち資料
@人事は、「業務を改善・効率化する法人向けサービス紹介」を通じて日本の人事を応援しています。採用、勤怠管理、研修、社員教育、法務、経理、物品経理 etc…
人事のお仕事で何かお困りごとがあれば、ぜひ私達に応援させてください。
「何か業務改善サービスを導入したいけど、今どんなサービスがあるのだろう?」
「自分たちに一番合っているサービスを探したいけど、どうしたらいいんだろう?」
そんな方は、下記のボタンを
クリックしてみてください。
サービスの利用は無料です。
関連記事
-
コラム
残業ゼロを目指して
タスク整理の基本は、頭の中を書き出すこと! 「GTD」を簡単図解
残業ゼロを実現するためのビジネスハック術を紹介する、ベストセラー作家・佐々木正悟さんの連載企画。今回は、これまでとは少し違ったアプローチの「タスク整理術」を紹介します。目次 ちっと...
2017.10.12
-
コラム
城繁幸、ニュースを斬る
総選挙の今だから再考すべき「働き方改革」「残業代ゼロ法案」の本質
目次 単なる残業自粛では、「実質的な賃金カット」が進むだけだ 終身雇用そのものにメスを入れない限り、真の改革は実現しない “残業代ゼロ法案”というフィクション 衆院解散で先送りされ...
2017.10.09
-
国内・海外ヘッドライン
国内人事ニュース
厚労省、10月を「年次有給休暇取得促進期間」に
厚生労働省は今月2日、年次有給休暇を取得しやすい環境整備を推進するため、10月を「年次有給休暇取得促進期間」とし、全国の労使団体に対する周知依頼、ポスターの掲示、インターネット広告...
2017.10.04
-
THE SELECTION特集
【特集】ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論
ChatGPTなどの生成AIの登場により、「生成AIに仕事を奪われるのではないか」という危機感など、波紋が広がっている。そこで@人事は、このように生成AIが一般化する社会の中で、人...
2023.11.21
-
特集
ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論vol.3
【2024年の人的資本開示で必須】生成AIの「働く場」へのインパクト~制度や体制・育成や人事制度、採用について
ChatGPTをはじめとする生成AIが一般化する社会の中で、人材戦略・人的資本経営のをどのように行うべきかを解説する特集。第3回は、前回に引き続き、経営人事の実務上の留意点を紹介す...
2023.11.15
-
特集
ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論vol.2
【2024年の人的資本開示で必須】生成AIの「働く場」へのインパクト
ChatGPTをはじめとする生成AIが一般化する社会の中で、人材戦略・人的資本経営のをどのように行うべきかを解説する特集。第2回は、前回考察した人材戦略全体にわたる留意点について細...
2023.11.13
あわせて読みたい
あわせて読みたい
人気の記事
国内・海外ヘッドライン
THE SELECTION
-
PRTHE SELECTION企画
「置き型健康社食」がもたらす可能性とは
健康経営、採用強化、コミュニケーション活性化にも。 手軽に導入できる「食」の福利厚生
-
PRTHE SELECTION企画
街なかの証明写真機「Ki-Re-i(キレイ)」で、もっと社員の顔写真管理をラクに
社員証の写真、「最適化」できていますか? チーム力を強化する顔写真データ活用法とは
-
THE SELECTION特集
【特集】ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論
-
THE SELECTION企画
レポートまとめ
@人事主催セミナー「人事の学び舎」 人事・総務担当者が“今求める”ノウハウやナレッジを提供
-
THE SELECTION特集
特集「人手不足業界の逆襲」~外食産業編~
「見える化」と「属人化」の組み合わせが鍵。 丸亀製麺が外食業界を変える日
-
THE SELECTION特集
人事のキーパーソン2人が@人事読者の「組織改革」の疑問に答えます(第2弾)
数値化できない部署を無理に人事評価する方が問題。曽和利光×北野唯我対談
-
THE SELECTION会員限定特集
働きやすい職場づくり~サイバーエージェント編
「妊活支援」や 「働くママ・パパ支援」を、 一部の社員のものにしないためには?