【後編】細井智彦が教える中途採用成功術
「入社後に活躍する人材」を見つける方法 求人票作成から書類審査、面接まで
2017.10.18
転職コンサルタントの細井智彦氏に、中途採用を成功させるテクニックを聞くインタビュー企画。前編では、「良い人材が採用できない」という会社が陥りがちな4つのパターンを紹介しました。後編はいよいよ、求人票の作成から書類審査、面接まで、採用活動に役立つ実践面のノウハウを紹介します。(2017年7月取材、聞き手:尾越まり恵)
細井智彦(ほそい・ともひこ)
細井智彦事務所代表、転職コンサルタント。
大手人材紹介会社にて20年以上転職相談や模擬面接などの面接指導に取り組む。企画し立ち上げた面接力向上セミナーは12万名以上が受講する人気セミナーとして現在も実施中。採用企業の面接官向けにも研修・講義を開発し、人事担当から経営者まで、260社、面接官3000人以上にアドバイスをしている。2016年3月に独立し、フリーな立場から、引き続き個人と企業の面接での機会創出に取り組んでいる。著書『転職面接必勝法(講談社)』ほか多数。
候補者のPRで注目すること、無視してよいこと
―候補者が応募したくなる求人票の書き方のコツを教えてください。
求人票は、誰に見てほしいのか、その人が見た時にどのように感じて、それによって応募ボタンをクリックしたくなるのかどうかを思い浮かべて作ってください。
例えば、よくある表現に「未経験可」がありますが、これも、候補者の立場からすると、もっと良い表現があるはずです。IT企業の場合であれば、「当社は汎用機からWEBに切りかえる際のシステム開発の技術には自信があり、社内には30年以上働くベテラン社員が何人もいて、彼らから技術を直接教わることのできる会社です」と書いたほうが、なるほど、教えてくれる土壌があるんだなと安心できると思います。
募集要件はこれでいいか、仕事内容はこれでいいかと、ただ内容をチェックするだけではなく、「見た人がここで働きたいと思える求人票になっているか」という目線で作成してみてください。
―書類選考での見極め方について教えてください。
候補者は、熱心に自己PRを書いてきます。これまでの仕事で「論理的思考を学んだ」「顧客視点の重要さを学んだ」など、いろいろなアピールポイントがあります。しかし、極端な話をすると、これらの本人がアピールしたいことは、いったん無視してください。書類で大事なのは、「事実情報」です。
これまでに「接客業に従事し、コミュニケーションの大切さを学びました」と書かれてあったとします。これを見ると、「実際にコミュニケーションの何を学んだのか」と突っ込みたくなります。しかし、どういう環境でどんな行動をとる必要があったのか、その行動をとるために求められたこと、その行動をしながら生かしてきたものは何かに注目することが大事です。接客業といっても、どんなお客様に何を売っていたのかによって、言葉遣いも勤務期間も違いますから。
また、「私はこういうことを生かせると思います」と書いてあった場合、「なぜならば」がきちんとあるかどうかも見てください。もし書類に書かれていなければ、一旦置いておいて、どこで誰と、何をしてきたかという5W1Hの分解をしてみましょう。
書類選考で気になる「転職回数」「体調不良」の捉え方
―企業は転職回数が気になると思います。転職が多い人は書類選考の時点で考えたほうがいいのでしょうか。
もちろん、100人の応募があったとしたら、書類選考の時点で転職回数の少ない人が選ばれるのは仕方ないことだと思います。ただし、一概に転職回数が多いから採用してはならないというわけではありません。
車を買い替えるのと同じで、思い付きで動く人もいれば、きちんとストーリーを持って決める人もいます。転職も、どういうストーリーで歩んできたかが語れるか、またそのストーリーに整合性や納得感があるかが大事になります。
創業したばかりのベンチャー企業でも安定した大手企業でも、勤務していて、経験を通してタフになっている人もいます。今の会社は成長期だから、ベンチャーでの経験が生かせそうだし、会社が成熟したあとは大手での経験が生かせるだろうという判断もあるでしょう。実は1社だけで長く働いてきた人よりも、修羅場でもまれてきた人を採用した方が会社の目指す方向性とマッチする場合もあります。
―転職理由として、体調不良があった場合、採用をためらってしまうと思うのですが、どう捉えればよいでしょうか。
体調不良で退職して3カ月や半年の休職期間がある場合、企業はかなり気になると思います。特に今は、心が折れてしまう人が多い。でも、できればそれだけを見て書類選考の時点で不採用にするのではなく、きちんと話を聞いてあげてほしいと思います。まじめで優秀な人も多いので、もったいないです。
心が折れた人は強くはならないのですが、変わることはできます。「自分との付き合い方が分かり、しっかりリフレッシュができたので、チャンスをください」ときちんと言える人は大丈夫だと思います。むしろマネジャーになった際に自分と同じような状況にさせないようにケアができるようになるはずです。
過労や人間関係など、いろいろな理由があると思いますが、能力がないのではなく、自分の仕事を認めてもらえないと居場所がなくなり、病んでしまう人が多いのです。そういう部分は入社後のマネジメントでクリアできることもあります。
どういう経緯で転職し、なぜいまこの会社を希望しているのか、きちんとストーリーを確認してみてください。
「選ぶ」面接ではなく「発掘する」面接を
―面接のポイントを教えてください。
面接では会社側が候補者を選ぶという感覚が強いのですが、「選ぶ」のではなく「発掘する」面接をしなければなりません。欲しい人材像の型に当てはめて、マッチングするかどうかを見るのが、「選ぶ」面接です。一方で、「発掘する」というのは、目の前の人をどういうふうに生かしていけば、活躍してもらえるかをシミュレーションすることです。
思い描いていた人とは違うけれど、「意外とこういう部分が任せたい仕事には向いているかも」「あのお客様に合うかも」と、映画監督になったつもりで、目の前の候補者を採用した場合に、どんな芝居をしてくれるのかを想像してみてください。
イケメンで身長180cmばかりの配役だけではなく、背が低いヒーローがいてもいい。多様性を増やそうと思ったら、「女性は難しい」「年配の男性は使いづらい」などという先入観を捨てて、その人をどう生かせるかを探ってみる。これが今の時代に求められている「発掘する」面接です。
―性格や態度などで気になる点があり、採用するべきかどうか迷った場合は、どう判断すればよいでしょうか?
これは悩ましいですよね。「迷ったらとるな」、または「迷ったら一旦採用せよ」と、両方の考え方があります。
私はこう伝えています。「その人の気になる点が、入社後に変えられたり、学習することで良くなったりすることなら、目をつぶってOKです。しかし、生まれつきの性格的なもので、入社後に自分たちで変えてあげられそうになければ、採用しないほうが無難でしょう」と。
例えば、面接中の態度が悪く、頬杖をついて話を聞いていたとします。でも、話を聞いていると、素直でまっすぐな性格である。注意して納得すれば改善できそうだなと思えば、採用して大丈夫です。一方で、話をするとどうもひねくれた感じがあって、物の見方が少し違うと感じる。あるいは物事の捉え方が全部ネガティブである。そういう場合は、入社後に変えることは難しいかもしれません。
―採用活動をされている経営者や人事担当者にメッセージをお願いします。
中小企業が優秀な人を採用するために必要なのは、社長あるいは人事担当者のアイデアと工夫と、情熱しかありません。人間の心が動くのは、整理された情報や正しいか正しくないかという判断軸だけでなく、目の前の人から感じられる思いや熱意ではないでしょうか。
自分の会社について話すと長くなる社長がたくさんいるので、あらためて、
- 我々の会社はどんな会社か
- 求める人に期待すること
- 今後会社が目指していきたいこと
この3点を語れるようになっていただきたいと思います。
そして、このメッセージを説明会やエージェント、面接など多くの場できちんと社長みずから語ってください。人事担当の方は、ぜひ社長の熱意が候補者に伝わるようバックアップしてあげてください。そうして、メッセージに共感し、接点のある人とぜひ出会っていただきたいと思います。
細井智彦が教える中途採用成功術
- 【前編】「良い人材がいない」という会社にありがちな、4つの失敗パターン
- 【後編】「入社後に活躍する人材」を見つける方法 求人票作成から書類審査、面接まで
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尾越まり恵(おごし・まりえ) フリーランスライター。福岡県北九州市生まれ。結婚情報誌ゼクシィの制作に携わり、2011年に独立。「女性の生き方」をテーマに取材・執筆を続けている。福山雅治、ホークスが好き。
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