コラム

データが会社を強くする! 北野唯我のロジカル採用理論


広告費は売上の「1%」採用費は広告費の「0.1%」は妥当なのか?

2017.09.20

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あなたは自分の会社の「採用費」が、どのように決められているか知っていますか?

初回から大きな反響を呼んでいるコラム「北野唯我のロジカル採用理論」。ボストン・コンサルティング・グループで事業戦略立案業務の経験を持ち、株式会社ワンキャリアでチーフアナリストを務める北野唯我氏が、データを交えて人材業界をロジカルに紐解きます。第一回は、「新卒採用で採るべき人数」を決めるのに必要なデータを解説しました。

第二回となる今回のテーマは「採用費」。人材の採用にかけるコストの妥当性を検討します。

目次
  1. 意外と答えられない? 企業の「採用予算」の決め方
  2. 企業の「広告宣伝費」が決まるメカニズムから、採用費を考える
  3. 採用費は「広告宣伝費の1,000分の1」で本当に妥当なのか?
  4. 企業が採用費の割合を増やすべき2つの理由
  5. 広告宣伝部の「余った予算」はどこへ行く?
  6. 優秀な人材を採用するために必要なのは「理論」と「システム」

意外と答えられない? 企業の「採用予算」の決め方

「年間の採用予算って、どうやって決めるべきですか?」

友人の経営者に、こう聞かれたとします。採用責任者である“あなた”は、なんと答えるでしょうか。私の肌感覚ですが、多くの方が「意外と答えにくいな」と感じるのではないでしょうか。回答は、以下の3つの方法のどれかに当てはまると思われます。

▼企業の採用予算の決め方(例)

1、 採用単価から計算する方法(人数×採用単価
2、 施策単位の予算を積み上げて計算する方法(施策数×平均予算
3、 前年比予算をベースに計算する方法(前年予算×増減率

この中で最も一般的な手法は、おそらく1つ目の「採用単価」から計算する方法だと思われます。調査によれば1人あたりの採用費は平均で45.9万円といわれますから、10人を採るのであれば460万円が必要になる、といった形です。

では、そうして決まった採用費は何に使われているかというと、「広告費」が50%近くを占めます。具体的には、採用ホームページの制作費や、ナビサイトへの出稿、合同説明会がメインといわれます。

企業の「広告宣伝費」が決まるメカニズムから、採用費を考える

さて、広告費といえば、企業全体の「広告宣伝費」はどうやって決まるのでしょうか? 結論からいうと、広告宣伝費の予算は「売上の歩合(X%)」をベースに決まることが多いと言われます。例えばトヨタ自動車は売上の1.7%、ソニーは売上の4.8%程度といった具合です。

その背景はいくつかあります。例えば、
(1)変動費的な要素が強く、業績に応じた増減が簡単だから
(2)将来顧客を獲得するための「投資」として、一定額を保つ必要があるから
などです。このように商慣習として、広告宣伝費は売上に連動する形式をとっているわけです。

そして「採用費」は、上記2点で「広告宣伝費」に似ています。
具体的な共通点として、採用費も
(1)業績に応じて予算額を変動させやすく、
(2)企業にとって投資になりえる
ことが挙げられます。

採用費は「広告宣伝費の1,000分の1」で本当に妥当なのか?

しかし、両者は決定的に異なる点があります。それは、「予算規模」です。上述のソニーは年間の広告宣伝費は4,000億円近くもあると言われますが、同社の採用費(新卒)は採用人数から逆算するに、3億~6億円程度だと推測されます。すなわち1,000倍近い差があります。

これは変な話です。企業にとっての「採用」とは、料理における「素材」のようなものです。あなたが美味しい料理(=企業の成果)を作ろうと思ったら、まず良い素材(=優秀な人材)を仕入れるはずです。そんな重要な採用費が、広告宣伝費のわずか1,000分の1しかないことは本当に妥当なのでしょうか。ストレートに言うなら、私は2つの観点から「採用費の割合を増やすべき」と考えます。

企業が採用費の割合を増やすべき2つの理由

1つ目は、近年「人材の重要度」が高まっていることです。国内GDPにおけるサービス産業の割合は年々高まり、現在は70%近くを占めています。(内閣府調査:PDF)サービス産業は、資産のうち「物理的なもの以外」の割合が大きいわけですから、企業間の差別化ポイントも、必然的に「モノ」ではなく「ヒト」によって生まれる部分が多くなるはずです。

言い換えれば、「以前よりも人材の重要度が高まっているのだろうから、企業の採用費もそれに準じて上がるべき」ということです。

もう1つは「効果的な広告宣伝に要する金額が減っていること」です。テレビ広告は依然として強い影響力を持つと思われますが、雑誌や新聞といった紙媒体の広告価値は減るばかりです。一方でウェブマーケティング(SEO、SNSやコンテンツマーケティングなど)の価値は高まりつつあります。そして、ウェブはマスメディアに比べてターゲットを出し分けできるので、効果的なプロモーションを比較的低予算で展開できます。つまり、広告にかける予算を適切にウェブに移行していけば、広告宣伝部の予算は余るはずです。

広告宣伝部の「余った予算」はどこへ行く?

では、広告宣伝部の「余った予算」はどうすべきでしょうか? 本来は、部署を超えて企業に最適な形で使うか、留保されるべきです。ですが、多くの組織では、人事部と広告宣伝部が分離しており、各部署は独自に予算消化の方向に走ります。結果、広告宣伝費の予算が人事部にあてられることは極めて稀です。

「就活売り手市場」と言われる昨今、多くの企業は採用費の予算を増加させようとしています。現に、2018年度卒向けの新卒採用について、約35%もの企業が「採用費が増えると思う」と答えています。一方、「減ると思う」と答えた企業はわずか6%に留まりました。

加えて、前回述べたように、「優秀な人材の獲得競争」は激化しています。だとすれば、採用費の重要度も当然上がると考えるのが妥当です。

▼人事部に必要なこと

採用予算を増やす:売り手市場/優秀な人材の採用単価アップに対応する
予算調整機能:広告宣伝費を採用費に配分する、または予算の調整機能

優秀な人材を採用するために必要なのは「理論」と「システム」

日本の採用マーケットにはいくつか課題が存在しますが、その1つは今回述べたように「企業が採用費を決めるロジックが弱いこと」にあります。そして、その理由は「採用市場にデータがないこと」と「採用の意思決定をサポートする、金融工学並みの理論がないこと」だと私は考えます。

数学は正しい数式を一度理解すれば、どのような問題にも応用できます。同じように、企業にとって本当に必要なのは、時代が変わっても優秀な人材を採用し続けられる「理論」と「システム」です。私はこれからも、時代の変化に対応できるような理論を率先して提案していきたいと思います。ではまた来月!

執筆者紹介

北野唯我(株式会社ワンキャリア執行役員兼チーフアナリスト) 新卒で株式会社博報堂に入社。中期経営計画の立案・M&A・組織改編業務を経験し、米国・台湾留学。帰国後、ボストン・コンサルティング・グループでの事業戦略立案業務などを経て、ワンキャリアに参画。現在、メディア事業の統括責任者。一方で23歳の頃から、日本シナリオ作家協会で「ストロベリーナイト」「恋空」などを執筆したプロの脚本家に従事。主な記事に『ゴールドマンサックスを選ぶ理由が僕には見当たらなかった』『田原総一朗vs編集長KEN:「大企業は面白い仕事ができない」はウソか、真実か』など。

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