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労働基準監督署と社会保険労務士に聞く、裁量労働制の「無効」判断 企業が取るべき対応は?

2017.09.07

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ゲーム開発会社に勤務していた女性について、渋谷労働基準監督署が裁量労働制の適用を無効とし、会社に残業代を支払うように勧告していたことが、2017年9月5日に分かりました。この女性は宣伝やイベントの企画を担当していましたが、残業時間が最大で月80時間にのぼり、これが原因で適応障害を発症したと報道されています。企業の人事担当者は、この無効判断をどのように捉えるべきなのでしょうか?

@人事編集部では、渋谷労働基準監督署と藤原伸吾氏(特定社会保険労務士)に取材。裁量労働制を導入するときに、企業が注意するべきポイントを聞きました。

裁量労働制とは?

労働時間の計算を、実労働時間ではなくみなし時間によって行うことを認める制度。「専門業務型」と「企画業務型」の2種類がある。業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられるような、一定の業務に携わる労働者についてのみ認められている。

参考:裁量労働制の概要(厚生労働省)

目次
  1. 裁量のない状態の仕事は要件外(渋谷労働基準監督署)
  2. 適切な運用が行われているか、点検を求める動きも(特定社会保険労務士 藤原伸吾氏)

裁量のない状態の仕事は要件外(渋谷労働基準監督署)

どのような場合に無効の判断がなされるのか、渋谷労働基準監督署に聞きました。

――今回、ゲーム開発会社に対し、裁量労働制を無効と判断したのはなぜでしょうか?

個別の事案に関してはお答えできません。法令に沿って判断をしたということになります。

――厚労省の告示によれば、「ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」は、専門業務型裁量労働制を導入できる業務とされています(詳しくはこちら)。これは具体的に、どんな業務を指すのでしょうか?

行政上の解釈としては、「ゲーム用ソフトウェア」は、「家庭用ゲーム機用のソフトウェア」、スマートフォンでプレイできるゲームを含む「携帯ゲーム用のソフトウェア」、 ゲームセンターに置かれているような「業務用ゲームのソフトウェア」を指しています。「創作の業務」というのは「全体のシナリオ作成」、「映像・音楽の制作」などを指します。

――企業の担当者が、注意しなければならないことを教えてください。

ソフトウェア創作の業務に従事していても、他人の指示に従って単純にプログラムを作っていたり、全く裁量のない状態で仕事をしていたりする場合は、この要件には当てはまりません。あくまで裁量のある業務について認められる制度です。これは、「ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」以外の業務についても同じです。

適切な運用が行われているか、点検を求める動きも(特定社会保険労務士 藤原伸吾氏)

続いて、特定社会保険労務士の藤原伸吾氏に、今回の判断が企業に与える影響について聞きました。

特定社会保険労務士 藤原伸吾氏

社会保険労務士法人ヒューマンテック経営研究所代表社員の藤原伸吾氏

社会保険労務士法人ヒューマンテック経営研究所代表社員。東京都社会保険労務士会理事。労働関係諸法令をめぐる企業の労務相談、就業規則等の制改定、M&Aにかかる人事労務面からの総合支援やグループ経営強化支援、IPO支援等のほか、トータル人事制度の企画・導入指導など、人事労務全般にわたるコンサルテーションを手がけている。

 

――裁量労働制は、どのような場合に認められる制度なのでしょうか?

今回是正勧告を受けたゲーム開発会社では、専門業務型裁量労働制を導入していたようですが、専門業務型裁量労働制を導入するためには、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務(法令等で定められた対象業務のみ)であることが前提とされており、導入する事業場ごとに労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要とされています。

――女性の行っていた業務(宣伝やイベント企画)について、裁量労働制が「無効」と判断された理由には、どのようなことが考えられますか?

報道の内容からだけでは詳細は分かりませんが、女性の担当業務が法令等で定められた対象業務に該当していなかったことが考えられます。対象業務は、法令等により、新商品若しくは新技術の研究開発の業務やゲーム用ソフトウェアの創作の業務、コピーライターの業務など19の専門業務に限定されています。

一部の報道によると、女性の担当業務は、イベントの企画や宣伝だったようですが、イベントの企画、宣伝等の業務は対象業務には含まれていないため、労使協定を締結したとしても裁量労働制を適用することはできません。 今回、該当の女性は過重労働を原因とする適応障害が発症したと訴えているようですが、労働基準監督署は、この訴えを受けて労働時間の実態調査を行う中で、裁量労働制の対象業務に該当しないとの認定を下したものと思われます。

――今回の勧告は、裁量労働制を導入している企業に、どのような影響を及ぼす可能性がありますか?

裁量労働制の導入は労使合意が原則であり、従来、労働基準監督署による立入調査の際に、労使協定の締結・届出をしている事業所に対して、実際の業務が労使協定で届け出た業務と一致しているかどうかまで確認し指摘が行われることはほとんどありませんでした。 しかし、最近、裁量労働制が適正に運用されているかを把握するために、郵送などで、裁量労働制を導入している企業に対して、実際の業務が対象業務に該当しているかどうかや、みなし時間が適正であるかなどについての、自主点検表の提出を求める動きも見られるところです。

政府は、秋の臨時国会において、企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大や高度プロフェッショナル制度(野党はこれを残業代ゼロ法案と呼んでいる)の創設などを含む労働基準法改正案の成立を目指していますが、その一方で、働き方改革の一環として過重労働の撲滅を目指し、労働基準監督署による勧告や指導の手を強めています。

今回の是正勧告がどのような影響を与えるかはまだ分かりませんが、今回のことを踏まえると、裁量労働制を導入している企業は、適正な運用がされているかについてあらためて確認しておくことが望まれます。


【参考情報】裁量労働制の概要(厚生労働省)

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